「あっれー?なんか、兄貴みたいな人いなかった?」
「……気のせいじゃねぇか?」
「そっか」
とぼけながら、俺は弟の将来についてちょっと考えてみたりした。
ちょっと騙され易すぎじゃないかというか、鈍感すぎじゃないだろうか…。
魔法にも種類がある。
人を助けるものと、人を損ねるもの。
俺はどちらも同じくらい使えるけれど、今使っているのは人を助けるもの、補助魔法だ。
変身というよりも幻をかぶせている、目を錯覚させているという程度の魔法だ。こういった小細工といっていい魔法を俺は得意としている。
だからといって、俺よりもレベルが高いはずの弟が騙されているのはなんだかとても遣る瀬無い気分である。
ヒューイットくんが少々、思春期的な…ストレートにいうと、初めての発情期というのがきたため、何故かヒューイットくんの父親に頼まれ、俺はここにいる。
ヒューイットくんには、彼の父に頼まれて変わり身をするという話で通してあったが、今は、もう俺の本当の目的もバレてしまっている。
俺の本当の目的はヒューイットくんをあの手この手でスッキリさせることだ。もちろん、最初に本人にそんなことを言ったら逃げ切られてしまう可能性が高いためそう言っておいたのだ。
俺がこのあの手この手でスッキリさせるという依頼をうけたのは、黄金週間あたりにあった事件を理由に学園に圧力をかけられ強制されたというのと、俺自身、これを機に契約を切ってもらおうと思っていたからだ。
そして今、平気なふりして辛い初めての発情を我慢しているヒューイットくんの姿をかり、俺はヒューイットくんのふりをしている。
ヒューイットくんは一応、エルフということになっているため、本来発情期なんてものはない。
最もらしく病気だとして休んだらいいのだが、親しい友人は普通に心配するだろうし、長期間になると親しい友人以外もおかしく思うだろう。
だからこそ、初めての発情期で一体どうなるかわからないヒューイットくんの代わりに俺が弟の学園を闊歩しているわけだ。
これにはもちろん協力者がいて、ヒューイットくんと一緒に風紀委員室に来たリゼルさん、弟のルームメイトであるクラウくんの二人だ。
さすがに俺の魔法だけでは頼りないからね。
弟の協力を仰いでいないのは、良くも悪くも素直であるためだ。
つまり、顔に出やすい。
そんなこんなで俺はヒューイットくんの姿をしているわけだが、その間、ヒューイットくんが別のところで見つかっては大変だ。変な噂になってしまう。
まったく違う姿にしても良かったのだけれど、せっかくなので俺と姿を交換した…そう、ヒューイットくんが俺の姿をしているわけだ。
つまり先程弟がいった『兄貴』は俺ではなく、ヒューイットくんというわけである。しかし、ヒューイットくんフラフラどこ行ってくれてるんだ。俺はちょっとヒヤヒヤもんなんだよ、いくら細かい魔法が得意とはいえ、俺よりランクの高い魔法使い騙しきれると思ってないから。
それにしても、弟はよそでは俺のことを『兄貴』などと呼んでくれているようだ。すぐに『にいちゃーん!』と泣きながら走ってきていたのに、成長したなぁ…と少し感慨深い。
「あ、俺こっちだから」
「おー、またな」
「んー…っても、今日はまだ別部屋帰るんだろ?」
「そうだな。じゃ、明日か」
「うん。じゃ、またー」
俺は弟に手を振り、一つ息をつく。
弟もあれで高ランクの魔法使いだ。
いくら間抜けでも、鈍感でも、だ。
ヒヤヒヤしてしまうのは仕方がない。
俺は、ヒューイットくんの部屋に急いだ。
誰かにバレやしないかってのもあるけれど、それ以上に、ヒューイットくんを部屋に縛り付ける罠をはるためだ。