右を見ても左を見ても青紫色が広がる、湖のほぼ中心地。
ぽつりと孤島のように存在する陸地で、俺は遠くを眺めていた。
遥か彼方にある岸辺に思いをはせ、心を折る。
「じゃあ、1人で戻ってくるんだよ」
そういって、青紫とはいえど水に属している湖面を歩いて颯爽と岸辺にむかってしまったクラウを思い浮べ、俺は地面に手をついた。
「お、王子のばかーっ!」
演習は鬼のような仕様だった。
まず湖に行く前に野外演習参加者達は講堂に集められた。
参加者達が集まったと知るやいなや、講堂のステージに立つ先生がニヤニヤ笑いながら今回の野外演習の目的、野外演習のクリア条件の説明をしてくれた。
魔法干渉がある場所で、味方がいない状況になった場合を想定し、所定の場所にもどること。
それが野外演習クリア条件。
当然、事前に聞かされていた通り、魔法干渉がある状況で魔法を使うとどうなるかというのが、今回の目的だ。
しかし、一応高等部にもなったのだし、今一歩踏み入れた演習を行うべきだということで、こうなったらしい。
騎士が必要ないなら、ちょっとビクビクしながら騎士を決める必要はなかったんじゃないのとか思わないでないが、いずれは必要になるらしいので、それはいいとしよう。
でもそれにしたって、初の野外演習がそんなハードなものじゃなくてもいいんじゃないだろうかと思ってしまう。
野外演習前にあんなにも意気込んでいたというのに、いざ湖に飛ばされると、意気消沈どころか、心の折れる音まで聞こえるようだった。
参加者は湖の色々な場所に転送されたのだが、どこからともなく湖面を歩いてきたクラウに偶然にも会った。
孤島に落とされた俺は、遠くから歩いてくるクラウに手を振った。クラウは笑いながら湖面を走ってきて、王子さまって汗さえ光るんじゃないだろうかと疑うくらい、きらきらしていた。実際、湖面が陽を反射してきらきら光っていたわけだが。
そんなわけで、爽やかにもちょっぴり煌びやかにやってきたクラウは、魔法干渉をうけて、自分一人くらいしか湖面を移動することができないと言った。
だから、ぼっちでしょんぼりな俺に手を振り、友好的に近づいてくれたにも関わらず、王子さまスマイルを振りまきながら、頑張ってね!といわんばかりにすぐさま去っていったのだ。
それは俺じゃなくても王子さまを罵りたい気分になるに違いない。
俺はショックを引きずり地面に手をついたまま、呪文を詠唱する。
兄に巻き込まれた時に使っていた魔法だ。
これによりなんとなく地続きになっている場所の温度を知ることができるわけだが、本当は地面の上にある熱源を感知するための魔法である。いくら地中の熱やらなんやらに邪魔されてあまり機能的ではない魔法であっても、地中の温度を知るには不十分だ。
しかし、今、俺が知りたいことはこれで十分であり、魔法干渉されてもさほどの影響がない。
俺が知りたいのは、この孤島が湖を彷徨う孤島なのか、それとも岸辺と一応つながっている地面なのか知りたかったのだ。
たとえ水が地面を冷やしても、地熱はそれなりにあるものだ。
特に野外演習日和に恵まれた、今日のような晴れた日は水温と一緒に上昇する。
俺の手のひらを伝って感じる熱は、この孤島が陸続きであるということと、意外な事実を告げていた。
「やっべ、ここ、温泉湧いてる!」
思わず喜びの声をあげてしまったのだが、そばに誰もいないため、青紫の水面に俺の声が吸収された。
この感動を早く誰かに伝えたい。
そんな気持ちでいっぱいである俺の心は、演習場所に跳ばされてから、初めて奮い立とうとしていた。
俺ってポジティブ。