奮起したのはいいのだが、クラウのように水を歩くような魔法は使えないし、ヒューのように飛ぶことだってできない。兄のように細々と仕様を変えるとかもできない。
だいたい補助魔法は得意じゃないのだ。
魔法は好きなのだが、女の子向けのお話みたいに魔法の力で変身だとか、魔法の力で飛んでいくだとかいう魔法は、魔法だと思っていないところがある。よくあるロールプレイングゲームのような魔法を俺は、魔法と思っている。
兄は、魔法すべてありえないと思っていたけど、俺は何処か外国にいけば、攻撃魔法みたいなのはあるんじゃないかなと思っていたわけだ。呪いとか気功とか、あんな感じで。
今では、空を飛ぶことも変身をすることもできると知っている。そう思えば、ヒューは両方とも軽々とやって見せるから、ヒューって実は女の子の理想の魔法使いなんじゃないだろうか。
そんなことを思うと、勝手に笑いがこみあげてくる。あれが女の子の理想だなんて。クラウならまだしも。強いて言うなら悪い魔法使いというのならなんとかである。
とにかく、そんなわけだから、魔法といえば攻撃魔法の俺は、補助魔法を使わねばクリアできそうにない、この野外演習は難しいたぐいのものだった。
「道…さえあれば岸辺に行けるかな…」
道といっても幅が広くて素晴らしい舗装されたものは作れないと思う。
絵に描いたような、お宝ハンターみたいなのが、通る危ない道なら作れるのではないだろうか。
これはヒロインがいてほしいところだが、女の子どころか男もいない、俺は今、ぼっちである。寂しいものだ。
「攻撃魔法でざっくり地面隆起させて、他の攻撃魔法で削れば道になる、か」
兄がいたら笑って俺を持ち上げるだけ持ち上げてくれたことだろうが、これがヒューだったら呆れた目で見てくれたに違いない。
素直に補助魔法を使ってみろよと。
「補助魔法とか、俺、絶対、干渉されまくりだもん」
どの魔法も等しく同じ程度干渉されるのだが、気持ちの問題である。
俺は地面に手をあてたまま、いくつか魔法をイメージする。
剣山のような魔法はいくつか支柱が出来てくれるかもしれないが、それに飛び乗ったり跳び移ったりとアクションゲームのようなことは、石の間隔が狭くなければできない。リゼルさんなら出来たかもしれないが、俺はあくまで魔法使いで、そういうのは得意じゃないのだ。
剣山の針の部分を密着させれば、とも思うのだが、湖の深さがわからないので、うまくいかない可能性がある。
剣山は石の先が針のように細くなっているから剣山なわけで、危うくすると針先を折っても片足でバランスを取らなければいけないのだ。
そこまで考えて、俺は地面を隆起させようとイメージした魔法を頭の中からすべて追い出す。
湖の深さがわからないのなら、結局、地面を隆起させるのは現実的ではないのだ。
それならばこの孤島を広げていってみてはどうだろうか。
しかしそれも、岸辺が見えないのなら現実的ではない。
俺のほうが先にへたれてしまいそうだ。
「ある程度の大きさでよくて、魔法の干渉が少なそうなかんじで」
俺は魔法使いではあるが、考えるのは得意じゃない。
そしてこまごましたのは得意ではなく、よくいえば豪快。悪く言えば大雑把なので、ドーンとできる魔法がいい。
「つか、湖とかもう、スワンボートでも漕いでおけよっていうんだよ。なんで設置されてないの。魔法使いなんでも魔法使うのいくない!」
考えるのが面倒くさくて、ついつい独り言でやつあたりだ。
大変虚しい。
だが、この独り言のおかげで、俺はあることを思いついた。
「そうだ、船だ!小舟作ればいいんだ!泥船なら転覆だからなんか、この湖に浮く素材…木なら完璧」
木の魔法はあることはあるのだが、俺はその魔法を扱ったことがない。だから魔法干渉を受けるととてもじゃないが人を乗せられるほどの木が扱えるように思えない。たとえ攻撃魔法でも、だ。
そうして俺は悩んで悩んだ挙句、ある方法にたどりついたのであった。
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