俺は孤島にいた。
孤島というには小さすぎる陸地で、浮いているのか地繋がりかを心配するほどのものであった。
調べたら、一応地下と繋がっていた。しかし、その孤島は地面につながっている部分だけで自らを支えているわけではなかった。
島自体に浮力もあったのだ。
島に浮力があるということは、その繋がっている場所さえ壊せばこの島は動くのではないだろうか。
浮力のある石や浮力をつけるための何らかの工夫を思いつかなかった俺は、そうやって破壊活動を始めた。
ちょっと慎重にやらなければ島を破壊しかねないし、あまり接続部分を長く切ってしまっても、島が重みに耐えかね沈没してしまうかもしれない。
だいたい俺が乗った状態で浮いていられるかどうかも怪しいのだが、今、小さな島の端に行っても大丈夫そうなところから、俺は沈まないと信じた。
さて、ここで問題になってくるのは、俺が細かなことを得意としていないということである。つまり、どれほどうまいこと島と柱のようになっている部分を切ったらいいかということが計算できないのだ。
見えるのならばこのくらい切ればセーフだとあたりを付けることも出来たのだが、青紫の湖はとてもじゃないが先を見通せるほどの透明度がありそうにない。その上、この湖も風で波立っているし、おそらく野外演習参加者の魔法によって動きが激しい。俺が湖の中に入ってうまく魔法を使ったとしても島が勝手にドンブラコドンブラコと流れて行ってしまうかもしれない。それはもう、桃か、ひょうたん型の島かというくらい流れて行ってしまうかもしれない。そうなると、俺の労力も無駄だが、もういろんなことが要因して立ち上がれないに違いない。立ち上がる場所も流れてしまっていることだろう。
だが、魔法は切るだけではない。叩いたり、ぶつけたり、分解したりも出来るのだ。もちろん作ったり、直したりなんかも出来るのだが、得意分野ではない。
そんなわけで、俺はこの島を支えている柱ともいうべきものを崩すことにした。
崩すというより変換させるといったほうがいい。
俺の使おうとしている魔法は、体の一部を接触させることにより変換具合を感覚的に知ることができるため、こういったことに向いている。地面をさわり、人が通る時を見計らいそこを石から砂にして足をとるといういたずらにしか使ったことがないのだが、本来は岩盤を壊すことや、形を作る時、大きな岩から素材をくりぬくときなどを使われているらしい。
うまい人になると発掘や、宝石を研磨することさえできるというので驚きである。
これは補助魔法の分類なのか、攻撃魔法の分類なのかは難しいところなのだが、この魔法が作られた当初、攻撃魔法として猛威をふるっていたらしいので、一応攻撃魔法に分類されている。
攻撃と言われたら単純なもので、俺は出来る気になってくる。
だから、補助魔法よりは使えるほうだ。
俺は島の地面に手をつき、この島がどんな形かを知り、柱が崩れていくイメージを作る。ボロボロと崩れていく石の柱。途中から砂と石になる、柱。
「砂石(させき)」
認めよう。
ネーミングは苦手だと。
そうして、うまいこと島を柱から離した俺だったのだが、魔法干渉のことをすっかり忘れていた。
砂と石をイメージしていたのに、意外と大きな塊に…柱がボキッと三つに折れた。とにかく岩の塊が倒れた形になってしまったようで、湖の水の動きが激しくなった。
島がひっくりかえらなくてよかったなぁとは思う。
しかし、予想外の早さで島は岸へと向かった。
「え…ええ…」
俺は焦った。
予想外だった。
この際、島を切り離した後どうやって移動するつもりだったのだということには目をつぶりたい。
島は船のようになっていた。
そして、俺は船が得意ではなかったらしい。
酔った。
「きもちわる…」
奮いたっていた心は再びすぐさま折れた。
船なんて、スワンボートどころか大きな船にすら乗ったことのない俺には、難易度の高い乗り物だったのだ。
色々な魔法の影響と干渉によりうっかり誰よりも早く岸に着いてしまったのだが、気持ち悪くてそれどころじゃなかった。
岸辺についたときは、本当に陸のありがたさを知った。
追い抜いたクラウが俺に追いついたころには、俺もなんとか気持ち悪さが収まっており、クラウと談笑しながら目的地に行けた。
クラウには、俺が大変な目にあったことは秘密にしておいた。
知らないほうが幸せなことってあると思う。
そう、俺が幸せだ。
「兄ちゃんきいてよー!散々だったんだよー!」
初めての野外演習は、最悪だった。
活躍は出来たかもしれない。
先生が『その発想はなかった』と笑っていたので、うん、褒められたと思うことにした。散々だったのだからそれくらいに思っていないとたまらない。
魔法の電話で兄に面白おかしく事の顛末を話し、さらに俺が活躍して先生に褒められたとちょっと脚色しておいた。
でも、愚痴は言う。
船酔いしただとか、初めての演習にこれはなくない?だとか、そんな話だ。
王子にぼっちにされたとかもいった気がする。
兄は笑ってこう言った。
『兄ちゃんの初演習はもっとひどかったから、活躍できた分だけいいよーう』
「え、兄ちゃんひどかったの?」
思わず兄ちゃんと言ってしまったが、癖なんだから仕方ない。
『うん、この前の演習もひどかったし、そういう巡りあわせなのかも…やだ、俺ってば不幸』
「あ、うん。兄ちゃんの考えが酷いね」
兄は酷いと言って笑って、楽しく魔法を使い終えた。
兄がひどかったのだから、俺は大したものだったのかもしれないと、俺は思い込む。
これはヒューやリゼルさんにもお伝えしなければと、義務感に駆られて、俺は俺の話を語った。
クラウが始終笑っていたので、口に人差し指を立てておいた。
でも、何故かヒューが後になってニヤニヤ笑いながら、『演習酷かったんだって?』とからかってきた。
誰だよ、ヒューにいっちゃったの。クラウは王子様だからそんなことしないって信じてる。
そうなると散々だったと愚痴った兄しかいないわけだ。
しかし、詳細まで説明できる勢いだったのだけれど、え、兄ちゃん千里眼?
そして俺は、温泉が湧いている事実を伝え忘れたのであった。
心折れちゃったもんなぁ…。