野外演習の憂鬱


弟をからかうだけからかうため、ちょっと気まずげなヒューイットくんに、気持ちも手伝って連絡をとって弟の話をした。
いくらイーディアスに釘を刺されようと、ヒューイットくんが好きだということをまずいなと思おうと、俺の気持ちは変わらないわけで、ちょっと声が聞きたいなと思ってしまったら、弟をだしに連絡とかとってしまったりするものだ。
だしというより言い訳みたいなものなのだが、ヒューイットくんの声は聞いたし、弟の間抜けさをごまかす演習具合をお知らせできたので、俺としては大満足である。
ヒューイットくんは、気まずげではあったけれど、弟の話を聞くと笑っていた。可愛いなぁと思ってしまった俺は、ヒューイットくんにベタぼれだ。
このままでは、怖いパパ竜に怒られてしまうどころか気持ちがバレる前に事故死させられてしまう可能性だってある。本当にまずいのだが、ヒューイットくんに気持ちがバレない限り安泰だし、ヒューイットくんとて俺より長く生きているのだから、気持ちを制御したりもするだろう。
脈があるとはいえ、本当に確信するまでヒューイットくんが俺を恋愛感情で好きであるといえるわけでもない。
俺がその気持ちを気づかせないことだって不可能じゃないだろう。
そのためには考える時間をあまり作らせてはならない。
だから、俺はヒューイットくんとは今まで通り接している。
一番ひどい期間はすぎたとはいえ、まだ発情期であるヒューイットくんが、はじめての発情期であるが故に性的な衝動にムラがでるので、たまにお誘いがあったりすること以外は、そう、今まで通りだ。
一番ひどい期間に、俺にお願いすると決めたヒューイットくんは、何を開き直ったのか、俺に気軽にそういったことを頼んでくれる。
俺としてはちょっと嬉しく、ちょっと虚しい。
人間と価値観が違うと言ってしまえばそれまでだが、それ以上に、俺のことはセックス付きの友人で、気軽にそういうことができるという認識だと俺が理解しているからだ。
ヒューイットくんとしては、襲ったり、突っ込んだりするのとは違って、合意だし、突っ込まれているのだから、明らかに俺の意思があってのことだというので、本当に、そこは気軽に頼んでくれる。
気持ちいいことは、好きだから、我慢しなくていいのも助かるとか、聞いてはいけないことも聞いてしまい、それもちょっと後悔しちゃったりしている。
このままいくと、俺とヒューイットくんはそういったただれた関係になるのだろうと思う。俺としても、虚しくてもそれをちょっと望んでいるので、やめるだとかは言わないことにしていた。
なんだかヒューイットくんとの関係が、表面上はとっても軽く、中身は重たくなってきているが、なんとか今はたまに辛いなぁと思うことがあるけれど普通である。
そうやってヒューイットくんと親交を深めている俺であるが、最近、妙に弟が俺の初演習について聞きたがる。
ヒューイットくんに弟の初演習について教えてしまったのが原因であるらしい。
『ねぇ、兄ちゃんはどうだった?ねぇ?』
大事な大事な弟が連絡をくれるたびに聞いてくるのは、少々、いやかなり鬱陶……可愛いので、ちょっと恥ずかしいが教えてやることにした。
たぶん、弟の周りの人間に筒抜けになってしまうけれど、自他共に劣等生だと認めている俺は今更、初演習の痴態を知られたところでどうってことはないのだ。
「仕方ないから教えるけど……」



俺の初の野外演習は、まだ俺が魔法のクラスにいたときに行われた。
その時には教師に、満遍なく使えすぎている。一つを突出してみないかという話をされていて、他の魔法使い達や親しくなりつつあったクラスメイトにももうちょっと違う努力してみないかなとか言われていた。
初の野外演習は、武術科の人間と一緒だった。
弟の学園には騎士制度なるものがあるが、俺の学校にはそれはなく、一年の間は、武術科の人間とチームを組んで野外演習を行うことになっていた。
俺の通っている学校は、高等部だけしかないため、中等部時に演習をしたこともないという人間も少なくなかったから、チームを組んでの演習は大変ありがたかった。
俺は、魔法ランクも低いし、演習成績もいいとは言い難かったから、魔法ランクの高いやつと、武術ランクの低い奴、高いやつの四人でチーム編成をされた。
その四人のうちの二人、武術科の人間がローエルとユスキラだった。
ユスキラは辺境の部族の出身だったんだが、なんでもこの学校の連中とはそりが合わないとか、部族内でも権力のあるお家柄だったとか、剣術に特化した部族であったとの理由で学校の授業を舐めてかかっていたということもあり、真面目に授業は出ていなかったし、入学試験もギリギリ受かる程度に手を抜いていたため、成績が悪かったのだ。
「みったんみたいのが武術のクラスにいたらいいのに。そしたら、俺、毎日楽しいのに」
「いやいやいや、俺、武器とかゲームでしか触ったことないからねーほら、こんなに貧弱よ」
俺は演習開始直後の自己紹介ですでにユスキラに気に入られており、わざとらしく軟弱な力こぶを作ったりしたものだ。
「だが、ミヒロ。一年の魔法だけの魔法使いで一番、反応速度いいし、力強ぇよ」
一年で一番魔法が使えるサージェスにお墨付きを貰ってしまった俺であったが、俺は首を振った。
「でも、武術できるほどのものじゃあないよねぇ」
「何事も経験じゃん。やろうよやろうよ、そんで転科して俺と一緒に青春しよー」
「ユスキラ、さすがに転科はどうかと思うぞ」
ローエルが苦笑するのも仕方ない。
この頃から俺達のお父さんはお父さんだったが、ユスキラは不満げにローエルを見た。
まだ入学して少ししかたっていなかったし、教室に行くことすら稀だったユスキラはローエルのことなんか知らなくて、なんだか真面目な男に見えていたらしい。実はそんなことはないのだが、不真面目なユスキラとしては面白くない人間の代表に見えていたようだ。
「俺も、転科は勧めねぇなぁ…ミヒロはやればできるやつだろうし」
魔法使いの中で、理系魔法ってやつは、それだけで珍しい。




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