いくら魔法レベルが低かろうと、多大な期待が寄せられてしまうし、他の文系魔法使いの一部に大変尊敬されるのだ。
ごく一部には理解できないという顔で見られるが、それは置いておく。
「魔法科の皆は、俺を買いかぶりすぎなんだよね。もっとガリ勉野郎が!とか、Cランク魔法しか使えねぇくせにクソが!とか一般教養しかやることねぇくせに能無しが!とか罵ってくれてもいいんだよー?」
「いや、お前を罵る勇気あるやつはいねぇよ。あんな真似されちゃ、陰口さえたたけねぇよ」
サージェスがそんなことをいうものだから、ローエルには首をかしげられ、ユスキラには興味をもたれてしまった。
「お。どういうことしたのー」
「そうだな……ああ、丁度、野外演習目的が見えたから、あれで実演してもらうといい」
その時の野外演習の目的はチームで協力するということと、凶暴化した獣、俺の世界のモンスターだとかいわれる存在を追い払う、または仕留めることにあった。
戦争はないが、希少種生物の乱獲などがある魔法の世界は、獣に対して大変敏感だった。
基本的には俺の世界の野生動物と同じ扱いで、人に危害を加えた獣は殺されたりするのだが、熊や虎、ライオンといった肉食動物よりも攻撃性が高い獣が多く存在するため、こちらでは人に危害を加えずとも殺す場合が多い。
また、野生動物たちとは違い、住み分けの方もかなり怪しかったり、故意に襲ってくる獣も多いため、遭遇したら殺せという獣たちもいた。
今回は、人の領域に踏み込み、人に危害を加えた獣の群れをどうにかすることを演習の目的としていた。
そんなことはちゃんとした国の警備をする人とか専門家にしてもらって欲しいものなのだが、その人たちの監督下のもと、危険度の少ない獣たちで演習させてもらうことになったらしい。
「俺の将来にこういうのいらないと思うんだけどなぁ」
「何があるかわからないじゃん。ほらほら、サージェスくんのいうとおりやってやって、みったん」
仕方なしに、俺はサージェスに声をかけた。
「じゃあ、補助お願い」
「了解。他の二人には声かけねぇのか?」
「サジェだけでたりるかな、一匹だけだし」
やってきた獣は、猪のような姿をしていた。
「じゃ、やるねぇ…我が足は羽のように軽く…」
足を早くするための魔法を足にかけて、俺は走り出す。
鋭くでかい牙を持つ、猪のような獣は、その目を俺に向けていた。
俺はその獣に向かって、もう一つ補助魔法を使う。
「光が広がり、白い世界へと…」
俺の詠唱を聴き、サージェスが俺を含む四人に視界を悪くする魔法をかけた。
基本の魔法であるため、サージェスはその魔法を一言でかけた。
「スモーク」
「スパーク」
辺り一面が真っ白になったあと、俺は地を蹴る。
一度獣の上に乗ると、その獣の頭だろう場所に手を置く。
「其の眠りを妨げるものなし。睡魔」
俺が睡眠の魔法をかけるとあっという間に、その獣は眠ってしまったわけだ。
「……ええと」
「効果的に無駄なく魔法を使うんだよ、ミヒロは。おかげで力押しされたら負けるくせに、魔法理論だの、魔法構築だのは、類を見ない成績だ」
「だーかーらーガリ勉とか、能なしとかいってくれていいのにー」
「能なしというには、コントロールが良すぎる。今の段階で罵るのは無理だ。その上、嫌がらせすらショータイムにしたやつのいうことか?」
弟の学校の親衛隊とやらに嫌がらせなどをする制度があるかどうかはわからないが、俺の学校には人気者に群がる生徒たちが人気者と仲のいい人間に嫌がらせすることが多々あった。
俺はサージェスとは仲がいいほうだったので、嫌がらせを受けていたのだが、ある日、なんで大人しく嫌がらせされなきゃならないんだろうなぁと思った俺は、盛大なショーを開いた。
理系魔法の考え方に則ると使われる魔法さえ理解していれば、ちょっとしたことで魔法が使えなくすることができる。
つまり、イメージを強くすることで使う文系魔法を崩すために、その文系魔法を理解し、そこを切り崩しにかかるということが可能なのだ。
力押しされてしまったら、俺にはどうにもできないのだが、教室で行われる嫌がらせ程度で全力をだす魔法使いはそういない。
そんなわけで、嫌がらせをされるたびに人を集めて、懇切丁寧に説明してド派手に切り崩しにかかったのだ。
今では俺に嫌がらせをしたいとおもっていない連中まで俺の机や靴箱に罠を仕掛けてくれて、俺の楽しい魔法分解だのを聞いている。
「あんなことをされて、ミヒロができねぇやつって思えるほどのバカはうちの学校には存在しねぇよ」
「あー魔法科の連中が最近毎朝楽しげに玄関たむろしてるのそれだったんだー…」
「知識の収集が好きな連中ばかりだからな、うちの学校は…」
魔法でファンタジックな弟の学園とは違って、俺の通う学校は研究者をよく輩出する学校で、魔法科の連中も演習をするより座学に勤しんでいたい連中ばかりだったのだ。だからこそ、ガリ勉という罵り文句はあまり使われないのだろう。
『兄ちゃん兄ちゃん、初野外演習散々だったのが見えない上に、なんかすんごく学校生活エンジョイしてるよ』
「うん、エンジョイしてるけど。散々だったのはこのあとね。このあと。なんか俺がいると獣が寄ってこなくてさー……今思えば、ヒューイットくんのせいだよね。そんなわけでさ、なんか、ほら、暇だったから、四人で罠を仕掛け回っちゃったんだよねぇ」
『……兄ちゃんもういいです。それ、人も獣もひっかかっちゃってーっていう展開でしょ?そうなんでしょ?大目玉くらっちゃったりしたんでしょ?』
「うん、ユキヒトは俺のことよく理解してるねぇ。おかげでユッキーもローエルと仲良くなったし、サジェとは今でも仲いいよ俺」
『兄ちゃんの散々ってなんか俺と違う』
「えーそう?怒られちゃったんだよ?ユキヒトよりひどいでしょこれ」
『なんか違う。なんか!』
弟は納得いかないようであった。
自分の中ではなかなかやりすぎてしまって反省した記憶だし、大目玉くらって謹慎までしてひどい目にあったと思っていたから、弟の気持ちがわからない。
わからないと言いたい。
でも、罠にかかってしまった他の連中はいい迷惑だったどころか、ひどい目にあったと思ったに違いない。
それを思うと、わからないと言えないのが悲しいところだ。
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