ドラゴンだってfall in love


「ねぇ、なんかヒューおかしくない?」
兄の散々だった初演習を身振り手振りで説明したあと、すぐにクラウが耳打ちしてきた。
「思春期終わってないんじゃない?」
昼休みの食堂。
王子にアニキにヤンキーに俺という、いつものメンバーで昼食をとっているときだった。
ヒューは相変わらず何か飲むばかりで飯を食わず、リゼルさんはパイ包みのシチューなんてお洒落なものをたべていて、クラウなんてアルフプレートなんていうカフェ飯みたいなものを頼んでいた。
俺は米が食べたくて、オニギリを持ってきておかずを食堂にまかせ、注文がくるまでの間、兄の話をしたわけだ。
兄の話をすると、ヒューは、一度食い付いたあと、ああ……という顔をして頷いていた。
契約が嫌だ嫌だといっていたが、なんだかんだヒューと兄は仲がいいらしい。
ヒューは兄のことをよく知っている。
兄の初演習のことも、兄から聞いたのだろう。
「思春期……あながち、間違えではないんだがな」
お洒落なものを食べていたと思ったら、次にチキンソテーのようなものを口に運んでいたリゼルさんが、苦笑した。
「おまえら二人ともなんというか」
リゼルさんが何かを言い切る前に、ヒューの小さなため息が聞こえた。
さすがに俺も、ヒューがおかしい…思い悩んでいるようにみえ、ようやくやってきたカレーのようなものにオニギリを添えつつ、ヒューに尋ねた。
「なんかあった?」
ヒューは、俺を見て、眉間に少しだけ谷を作る。カレーのようなものにオニギリを添えたことについて、微妙な気分になったのかもしれない。
しかし、これは何度食べてもカレーだ。なんの肉が入っているかわからないが、カレーだと俺は確信している。きっとご飯によくあうだろう。
一度ヒューも食べれば、きっと米とカレーのすばらしさに気が付く。
俺がそれを力説するため口をもう一度開こうとしたとき、ヒューから答えが返ってきた。
「……毎日、考えていることがある」
それは、俺が毎日食堂にオニギリを持ってくることについての抗議だろうか。それならば、明日から弁当箱に白い飯をつめよう。それならば文句などあるまい。
俺がそんなことを考えていると思っていないヒューは続けた。
「枠内に収めたくないものを、枠に無理矢理いれ、見ないようにしているのは」
「比喩すぎるのってわからないからわかりやすく」
カレーのようなものにご飯を混ぜこんでいると、今度はクラウが微妙な顔をした。
「それ、そういう食物なの?」
「日本人でも混ぜるか混ぜないかで喧嘩になることもあるからなんともいえない」
俺はカレーはご飯と少しずつ混ぜながら食べるタイプだが、さすがにオニギリは固まりになっているので多めにカレーみたいなのに混ぜている。
その様子は、魔法世界じ、米を見ないだけに、変な食べ方に見えるらしい。
今度から絶対弁当箱だなと、俺が心に決めている間にもヒューの話は続く。
「人間って面倒くせぇ」
「え、人外発言だったの。種族的なでりけぇとな話だったの?」
俺は思わず、カレーとご飯について考えていた自分自身を心の中でしかった。
「ある意味そうかもしれねぇ……か? いや、思春期だろ」
ぽつりと呟いたリゼルさんは、今度は川魚のムニエルを……いつも思うがリゼルさんの胃袋はいったいいついっぱいになるのだろう。
食べるのも早いから色々大丈夫かと心配になる。
俺が自分をしかったり、リゼルさんを心配したりと忙しい中、ヒューは自分自身の世界へと旅立っているのか構わず話し続ける。
「ひとつしか欲しくねぇのに、他はどうとか、友人がどうとか、面倒くせぇな」
「それ人間っていうか、それ言った人が面倒臭いだけなんじゃないの」
ヒューの言葉に、俺はまたもやポロっと口から零した。
「……お前の兄だが」
「え、それ、兄ちゃ……兄貴がいったの? ちょっと遠まわしに嫌がられてるよ、それ」
「嫌がら、れ、てんのか……?」




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