What?親衛隊!


近頃、親衛隊をつくりたいという子に毎日追いかけられる愉快な日々を過ごしている。
友人は、誰も助けてくれない。
「あれじゃん、皆、いっけめーんだから親衛隊とかいるんじゃないの?」
「俺もクラウもリゼルさんもいないぜ」
マジかよ?
半信半疑でヒューを見つめると、ヒューはマジだ。とひとこと呟いた。
「リゼルさんは騎士だったし、今は崇められるランクじゃないだろ」
何気にひどいこといってるヒューに、俺は納得がいかない。
「だって、リゼルさん風紀委員長だったんだろ?」
「ああ、そうだな。会長の騎士だったし、すげぇ目立ってたし、男前で、兄貴だよな」
「そーそ」
「…頼りがいある兄貴すぎて、誰を守るって?俺は守られなくてもいい。おまえたちを守る立場にいる俺を守ってどうするんだ?おまえらはおまえらの一番守りたいものを守るべきだろ。っつって、解散させたらしいぞあの人」
その現場に居合わせて、感動を分かち合いたかった。
俺が残念がっている間にもヒューは続ける。
「クラウは親衛隊とかありそうなもんだが、あのおっとりで鈍いくせにはっきりした性格だろ。僕はアイドルじゃありません。排泄はもちろんします。それなりにエロ本も所持する男です。性的対象にされているというのなら、一つ言っておきます。勝手におかずにしてしこしこする分には僕は知らないことなので、勝手に。本当に勝手にしてください。自己申告するような真似はしないで下さい。好意は好意として受け取ります。守ってくれるのも嬉しくおもいます。けれど、部隊だなんて…僕はそんなたいそうな存在ではありません…とかいってお断りをしたはずだ。影でファンクラブはあるらしいが。あの長広舌にびくりともしなかったやつらの」
その長広舌を覚えているヒューにも驚きを隠せない。
何故覚えている。
頭のいい奴って変態なんじゃないだろうか。と、たまにおもう。
「で、ヒューは?」
「俺は…なんつーか、まず、言われたことがねぇ」
この外見だろ?と、自らのヤンキーフェイスを指差す。
そこは納得する。しかし、それこそ、強いやつが出てくるかもしれないではないか。やはり俺は納得しない。
「この目見てもわかるとおり、生粋の魔法使い一族で、旧家の出なもんで…旧家なんてクソめんどくせぇ付き合いがあってなんぼだ。クソめんどくせぇお付き合いをそれなりにこなすと、なんだ。あそこの息子さん素行不良で。まぁ!いいオウチの出なのに!と、ご親族の間で大不評だ。あんな人と付き合うんじゃありませんよ。といわれたら、坊ちゃん連中は俺に近寄らない。そんで、一般家庭から来ている人間は外見が怖いし坊ちゃん連中は俺を不良として扱っているということで近寄らない。そうなるとそれなりに俺と直接付き合いがあるやつしか近寄らない。結果として、観賞用みたいな扱いに…」
「……それ、友達なかなかできなかったろ」
「それをいう辺りが最悪だな、てめぇ」
いつも通り、ニシャっと笑うヒューが憎い。
クラスの連中ともあまり話してないなーとか、遠巻きに見られてるなーやっぱヤンキーっぽいから?とおもっていたが、結構色々というか。元を正せばやっぱり外見のせいなのだけれど、色々あるようだ。
「そういうの、寂しくない?」
「おー。別に俺悪くねぇし。生まれ持った顔はこんなで、まぁ、うっかりピアスとかしちまってさらにそれっぽいけど。別に本気でそういうわけでもねぇし。口悪かろうと、直そうとおもったことねぇし。わかってくれるやつはわかってるからそれでいいつうか。いんだよ、別に、友達多かろうが少なかろうが、楽しい時間提供してもらえりゃ」
何かこっぱずかしいこと言われた気がする。
ちょっと寂しいかもしんねぇけど、今に不満はねぇし。と、ちょっと照れたヒューに、俺が猛烈に恥かしくなった。
「ちょ、照れるなら、もうちょっとオブラートに包んで」
「おまえ、結構いうことヒデェよな」
「うん、知ってる」
そんなわけで、三人とも親衛隊がいないらしい。
「生徒会の連中ならいるだろ。拒否はできなくなってるしな」
「あ、そっか。じゃあ、先輩方…に聞くのは敷居が高いから、ディオに聞こう」
「ああ、それがいいかもな」
そんなこんなでディオに親衛隊について聞いてみた。
どうやって断ればいいかは、断ってしまったクラウとリゼルさんに聞けばいいとして、親衛隊とはいったいどういったものなのか、ということをディオにきいたわけだ。
俺の認識としては、アイドルのなんかすごいファンクラブだ。
ディオの答えはこうだった。
「副会長のところは密偵集団みたいなもので、会長のところは茶飲み友達?会計のところはソロバン集団。俺のとこは…うーん…千夜一夜の会?」
「色々つっこみたいけど、千夜一夜って何」
「あー…なんか、お話大会みたいなことをして交流する集団みたいなかんじなんだよ。親衛隊とかいうけど、守る、なんてしてないぞ、ほぼ。会長のとこは会長があの通り大らかだし、今は騎士が不在だから、茶のみ友達たちがま、まもらなきゃ!ってなってるだけで…。生徒会は皆ウィザードだし、時期になるとそれなりのランクの騎士がつくから、守るってのはないなぁ」
そう思えば、ウィザードには騎士がつくのだった。
「あれ?そうなると、ディオにはすでに騎士がいんの?」
「そ。中等部からいた奴は殆どいるぞ。もちろん、クラウにもいるし…と、リゼルさんはその必要がないし、前は騎士だったからいない。ヒューは確か、中等部のとき親しかった友人が騎士としてついててくれたんだけど、なんか、守りたいやつできたからって返上されてそのままか」
ヒュー、なんかついてないというか、不運というか。
たぶん、本人もあんまり拘ってなかったんだろうな。
魔法以外にも武器も一応使えるって話だし。…そう思えば、ヒューはすごいハイスペックな奴だ。
「ヒューってハイスペックなのに、もったいない」
「ああ…まぁ、人間じゃないから普通じゃないか?」
「は?」
新事実発覚ってやつだ。
もったいないなー不憫だなと思っていたヒューは、なんと、人間ではなかった!
驚きのあまり、声が出ないが、とりあえず携帯電話を取り出した。
圏外。
そうだった。ここ魔法世界だった!
寮では文明の利器が普通に使えるので気にせず持ち歩いていたのだ。
普段は文字を確認するとき、通信システムを使わないゲームをするのに使っている。
「あ、それ、ケイタイってやつか?すごいな、こんなんで話とかできんのか…」
そう思えばディオも魔法世界出身者だ。携帯にはなじみがない。
とりあえず携帯をディオに渡して、俺は呪文を唱える。
「言葉を伝える音の伝播、伝話」
「デンワ?」
「あ、うん、あとで!あとで説明するから!」
今は、ヒューの人間じゃないについて、俺の思いを伝えたい。
「兄貴兄貴!」
はしゃぐ俺に、指輪の石から兄の声。
『なにー?なんなのー?ちょっと、時差考えてー?俺授業中よー?』
「あ、や。兄貴、授業中に応答すんなし」
『無理ーあ、せんせーすません、弟から急用で』
早く戻って来いよと、兄の先生と思しき人の声が聞こえた。
いや、たいした用じゃないけども。
『で、何?』
「あ、そうそう!ヒューが!ヒューが人間じゃなかったんだ!なんなんだと思う?」
暫く、指輪からは何も聞こえなかった。
兄ちゃんリアクションがないと、俺も寂しいよ?
『うん、まぁー驚いたのは解った。その、ヒューくんとやらがなんなのかは俺も見たことないし、あったこともないからねー解らないよーそういうのは本人にきこうねー驚きすぎて色々すっとんじゃったのはわかるけどねー』
…携帯にはしゃいでいたはずのディオが、本当に残念そうな目で俺を見ていた。
……そんな目で俺を見ないでくれたら嬉しいなぁ。
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