弟が言った。
魔法使いになりたい。
それがすべての始まり。
弟は魔法を信じていた。俺は信じていなかった。
けれど、虐められて魔法を疑った弟に、俺は証明してやりたかったのだ。
魔法は、あるのだと。
俺は魔法を立証する。
魔法という存在があること、魔法が使えること。
ただし、それは秘密にしなければならないこと。
落ち着きはないけれど、俺より魔法の才があった弟は、あっという間に兄を置いていった。
俺はというと、魔法があることさえ立証できればそれでよかったのだから、魔法にどっぷりつかるということはなかった。
しかし、俺は魔法を使い続けた。
理由がある。
会いたかったからだ。
鉄と鉄のぶつかる音がして、俺は、意識を現実に向ける。
弾かれた剣は宙を舞って、俺に向かってとんでくる。
俺はその剣を避ける。
「…危ないなぁ…」
一年生の演習時間。
同じ時間に演習をすることとなった二年生である俺たちは、一年生を眺めていた。
俺に剣を飛ばしてしまった一年生は真っ青な顔で土下座をする。
「いや、なんとも思ってないから気にしなくてもいい…って、逃げられた」
「そりゃそうだ。みったん有名人だもん」
蛍光ピンクとしかいいようのない浮かれた髪色のせいで目立って仕方ない。という有名人ではないのだろうなぁ…と思いながら、友人にどんな風に?とうながす。
「人を弄んで性質が悪いって」
「それはまたご光栄です」
「そういうところが性質悪いって言われるんだろうよ」
そうかもしれない。
俺はそう思いながら、ぼんやりと腕輪を眺める。
今じゃネットでもかえる天然石と呼ばれる石が収まったそれは、ごつくて意外と邪魔だ。
手からは魔法で抜けないようにしてはあるものの、この授業を受けている俺には邪魔でしかない。
「お、みったん呼ばれてる呼ばれてる」
「あーい。じゃあ、適当に行ってくるら」
「おーちょいちょいっとかたづけといで」
手を振る友人を置いて、学校貸し出しの戦斧をもって絶対結界の中に入った。
「ちょいちょいっと片付けられる相手なの?ローくん」
「ちょいちょいっと片付けられたこまんだけど…」
大剣を構えたローエル・リンディア・ロレンスが苦笑した。
俺の向かいにいるローエルは俺と同じクラスのトップ成績。
「ちょいちょいっとやられるのは俺なんじゃないの?」
一方、クラスで下から数えた方が早い俺。
「今日こそは本気出してもらいたいもんだな」
俺は視線をそむけず戦斧を構える。
本気ねぇ。
この学園を受験時には出していたものだ。
その頃は武器なんて持っていなかったし、魔法使いとして試験を受けていたのだけれど。
俺はすぐに魔法使いクラスから出て、この殆ど男しか居ないクラスに落ち着いた。
女の子には好かれない職業ばかり集めたクラスなのだ。
何故このようなむさっくるしいクラスにきたかというと、理由は至って簡単で、俺が魔法使いに向いていなかったからだ。
剣術や武術、武器を使うありとあらゆる手段を学んできた、身体に叩き込んできた連中にとって俺は俄かでしかないし、今現在の成績も納得できるはずなのに、成績がいい奴に限って、俺が本気をだしていないと言い出す。
いや、本気もクソも。と思いながら、風を切りこちらに振り下ろされた大剣を戦斧で受ける。
二、三度それを受けると、俺は派手に転んでみせる。
そうするとローエルは眉間に皺をよせ、剣を止めた。
「…今日も無理か」