from The end


春のことだ。
こんなにも夜は寒いのかと、俺は目を開けようとした。
何かがあって目が開かない。俺は手を動かし、その何かを移動させようとした。手も動かない。どころか、足も動かない。
ああ、どうしたらいいんだろう。
寒い。寒いし、なにやら体が重いし痛いし、圧迫されてる気がする。苦しい。ここから、出たい。ここからでるにはどうしたらいい。
解らない。隙間という隙間が埋ってしまっている気がする。
どうしたらいい。どうしたらいい。
ここから出たい。
液状にでもなって溶け出せばいいのだろうか。
そう思ったときには、俺は地面のうえに立っていた。 急に自由になった身体に違和感を覚えながら、目にあった何かを払う。それは手にひっつき、ざらざらとして、湿気ている。まぶたを開き、手についたそれを見て首を傾げる。土、だ。
まさか、土の中にいたとでもいうのだろうか。俺は、今、土のうえにたっているというのに。
溜息をつき、辺りを見渡す。月も星も出ていない、明かりもない、森の中。
よく見える。
薄暗いがここがどこであるかよく解る。
ああ、確か、約束をしていた。
その約束を守るために俺はここにいる、そうだったはずだ。
視線を落とした先。貧相な手が見える。
こんな色をしていただろうか。それなりに、焼けていたはずだ。
それに指はこんなに長かっただろうか。骨っぽかっただろうか。
俺は確認するように身体を触る。
貧相なのは手だけではない。足も身体も長くて貧相で、服すらボロボロで、まとわり着いている。といった印象だ。
最後に触った頬はこけていた。
どこか、自分の姿を確認したい。
この森には湖があったはずだ。そこへいきたい。
強く願った。
気がついたら、そこは湖だった。
これはきっと、夢なのだ。
そう思って覗いた湖には今にも折れてしまいそうな、骨と皮の青年がいた。
誰だ?まさか、これが俺か。
背はもっと低かった。肉付きはもっとよかった。
どうしてこんなことになっているのかよくわからない。
湖で身体を洗おうとすると、何か小さな人間が走り寄ってきた。
「ここで洗わないで。お水は出してあげるから」
もう一度思う。
これは夢だ。
水色とも透明ともいえない曖昧なすけた身体を持つ小さな人間に言われるまま、湖から離れると、小さな人間はご機嫌と言った調子で俺の周りをくるくると回る。
それだけで、俺の頭上から雨が降ってくる。
気がつけば、すっかり身体は洗い流されていた。
「珍しい。あなたのようなの、あんまりここにはこないの」
「?」
「だって、森はあなたを拒むでしょう?それとも、ここで生まれたの?」
「いや…」
「…ううん、あなたはここで生まれたんだよ。だって、この森はあなたを拒まない。本当に、珍しい」
小さな人間に驚いているはずなのに、俺は、この小さな人間はずっとこの世界にいると何故か知っている。
それどころか。
さっきから俺を遠くで近くで眺めている気配があるような気がする。
意識をすれば簡単だ。
彼らは俺の目に映る。
それは緑であったり、茶色であったりした。
人間であったり、動物であったりした。
「ねぇ、あなた、名前は?」
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