third invader


喉仏の歯型をそのままに転校二日目、もしかしたら、三日目かもしれない。とにかく深夜。
そいつは俺の部屋に、窓から入ってきた。
ドアだけじゃなくて窓も壊れたか。
「…」
基久に髪を切らせてすっきりした俺は、月の出ない夜現れたそいつをみて、思わず苦笑。
「とりあえず、俺の喉仏が美味そうだったから噛み付いたというのはなんとなくわかるが、カスはカスだ」
「ッ…!」
「精霊様のやるこっちゃねぇよ」
俺が知っている限りでは、自然破壊だの汚染だので気が違ってしまった大地の…地の精霊の高位体は、それでも、急に噛み付くような精霊ではなかった。
「大体俺に噛み付くってのはおかしいだろ。別に、今更人間とはいうまいし、魔法使いでもない。地には嫌われてどれくらいかしらねぇし、光の祝福なんてもってのほか。火なんて恐れてしかるべき。愛されても闇と水と風くらいのもんだろ?」
「だが、うまそうに…見えたから…」
だから、気が違えたとか気が狂ったといわれるんだ、地の精霊は。
俺は目の前にいる地の精霊を見て、溜息をついた。
「あんなぁ…契約したってお前が村八分されるだけだし、いいことなんて一切ないの。解るだろ?大体俺を食ったところで、そんなのは、狂い精にしかなんねーの。解ってんだろ?そんで、お前はこれ以上狂う気はねんだろ?」
「ない…が…契約はしたい」
夜中に突然あらわれて、契約を迫られる。
気分的には夜這いされた気分だ。
「あのなぁ…まぁ、俺はどれとも契約はしてないが」
「なら、いいだろう。どうせ、気が狂ってるなんていわれてんだ。今更、さらにくるってしまったとしても…」
問題はないといいたいのかね。
俺としては願ったりかなったりなのかもしれない申し出だ。
申し分ない高位精霊であるそいつを見詰めて、もう一度溜息。
「仕方ねぇから、契約してやるよ。ほら、手をだしな」
「…眷属には、しないのか?」
「精霊が眷属になれんのか?それとも、俺に汚染されたいのか」
汚染されたら草も生えないという話だ。
呪われる。ともいう。
「おまえなら、構わない」
えらく気に入られたもので。
俺はそいつの手首に噛み付く。
発達した犬歯というよりも、牙が手首に穴を穿つ。
「…ッ…」
血を吸われるときは快楽を伴うらしい。蚊みたいなものかな…と思う。何を分泌してるかは知らないが。
相手するもしないも俺次第。
精霊って一応人間の姿してる間は流れてるもん流れてるもんなんだな。
契約したことがないから過程は知っているものの、意外と人間と変わらないものだと実感する。そして美味くもなければ、むしろ悪いものばっかりのその血を飲み込む。
「俺の血は、先日飲んだか?」
「…のん…だ…」
「そ。じゃあ、成立だな。契約印はどこに入れる?」
そいつは笑って、自分自身の頬から首をなぞった。
契約印というのはいれると見せないようにすることもできるが、見せるようにすることもできる。
なるほど、独占欲の強い精霊にすかれてしまったようだ。
俺は右手で頬に触れたあと、ゆっくりと手のひらで首をなぞり、鎖骨まで辿った。
俺が触っただけで簡単に契約印が残された。
「で、たったのはどうしたい?すげー気持ちイイだろ?なんとかしてもらいてぇえ?」
答えは予想通りだった。
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