sixth festival


事件の切っ掛けだとか、原因だとかは日常に埋没しがちだ。
結果として、巻き込まれる時はいつも突然であるように思える。
じわりとその事件に絡め取られても、気がつくのは大抵遅く、突然だと思ってしまう。よく考えたら、巻き込まれる原因はどこかにあり、そして、それは事件の本筋に沿って姿を表す。突然ではないはずなのだ。
もし本当に突然巻き込まれたとする。本当に突然巻き込まれたのなら、その脱出は不可能に近いだろう。原因が途中参加ゆえに、巻き込まれたというからには少なくとも何らかの被害があり、大なり小なり関わらざるを得ない。たとえ、それが一瞬のことであろうと、本筋の中にしっかりと刻まれ、本人の意思は関係なくどこかに傷を残しているはずだ。
「見事なゴミ箱だ…」
転校して一週間もたっていないうちに、下駄箱がゴミ箱になっていた場合、原因を探るより、ゴミをどうにかしようと思う前に、こう思った。
「眠たくて幻覚が見えている」
「ちげーよ。ゴミ箱になってるって」
ザマァ。と嬉しそうに笑う基久の耳を引っ張った。後で覚えてろよ。
「鼠どもでも呼ぶかな」
「いや、それはやめたほうがいい。ホラーな光景になる予定なんだろ、どうせ」
「ネズミさんたちが僕の下駄箱をお掃除してくれるんだよ。って、いったら、ファンシーだろ?」
「いや、全然」
目をランランと赤く光らせた鼠が複数、とある生徒の下駄箱に群がる。鼠が居なくなると、そこには、生徒の上履きだけが残る。
「なんら普通のことのように思える」
「やめろ、マジやめろ。鼠とかたくさん来たら、これやったやつら笑うだけだぞ」
「なるほど…じゃあ、水分抜いて、砂にするか」
「化け物じみたことすんなっての」
「化け物だしな?」
下駄箱の前で同室者と話し合っている間に、俺の契約精霊に下駄箱の状況が伝わったらしい。こちらまできて、眉間に皺をよせ、ライカンスロープなんて目じゃないくらい殺気立った。
その殺気に隣の狼男は、身体を震わせ、尾てい骨のあたりを抑えた。
「怖がってワンワンのしっぽがでそうだから、落ち着けよ」
「ワンワンいうな!」
「……コレは?」
「コレは、ライカンで、コレが幼いころからからかい遊んでいるお気に入りのおもちゃ。今は同室者」
「おもちゃじゃねぇよ!」
「ふうん」
興味なさそうに頷いたが、コウシは基久が気に入らないようだ。殺気がいっこうに収まらない。
「契約して可愛がってんのはお前だけだからすねんな」
そう言うだけで、殺気が収まるんだから不思議なものだ。
「犯人は放っておいてもそのうち出てくるだろうから、おいておいたとしても。下駄箱はどうしたもんかな…」
次第に俺も面倒になってきた。
「なぁ、今日はもう帰っていいか」
「あ?なんで?」
「精神的苦痛で」
「嘘つくな。ぜってぇ感じてねぇから」
割と真面目な基久は俺の意見に反対すると思った。
しかし、まったく俺が気にもとめていないようなことに怒ることができるコウシは俺が誘えばすぐに頷くだろう。
「コウシ、一緒に昼寝しないか?」
「…喜んで」
案の定頷いてくれた。
共犯もできたことだし、存分に昼寝してやろうと思ったのだが、それでもやはり、真面目でケチくさい同室者の狼野郎は許してくれなかった。
「いや、書記、ダメだっつうの」
ついでに意外な事実も発覚した。
「あれ?お前、書記だったの?」
「知らなかったか?」
「いや全然」
「……コレ、多分、書記のせいだぞ?」
「そうなのか?」
「……たぶん」
基久の言葉をコウシに尋ねると、コウシは急にしょんぼりした様子で頷いた。
この学校の生徒会や委員会、一部の生徒は、崇め奉られているらしい。
その崇め奉られている人間に誰かが近づき、その誰かが分不相応だと判断された場合、このような現象が起こるらしい。
「宗佑、かっこいいから…こうはならないと思ってた…」
「あー確かに顔はいいしな。性格は置いておいて」
失礼なことをいうヤンキー狼男の足を踏みながら、俺は一度頷く。
「お前の信者か、俺がどういうのだろうが気に入らねぇ奴がやったと。そういうことか」
基久が無言で足の痛みを訴え、その場から足をどけようとしているのだが、俺はそれを離さない。つま先に力を入れ、右へ左へ動かして、踏み躙る。
「どちらか解らない。コレは、夜中に片付けさせとく」
「じゃあ、昼寝するか」
「いや、昼寝すんな。さぼんな」
もう足を踏み躙られて、悶えることができない基久の邪魔は無くなったと思ったのだが、俺が呑気にしている間に教師にも話は伝わったようだ。
我らが担任轟先生が少し距離をとって、声をかけてきた。
「なんでそんなに離れてるんですか?」
「くせぇから」
「あー…」
「お前ら人並み以上に嗅覚いいくせに、なんで平気なんだ…」
「こういう腐った匂いは慣れてるんですよ」
「同じく」
「も、勘弁ッ…足…、足…ッ!」
匂いどころではないだろうが、腐った匂いに慣れているのは基久も同じだ。
殴られる前に足を退け、ため息をつく。
「俺がどうでもいいうちにやめてもらいたいもんだ」
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