幼稚園から大学までエスカレーター。
金と、多大な努力を費やしてお受験して入った学校は男子校だった。
女が云々というより、まだまだ親が恋しい年齢で入り、女より男友達といるほうが楽しい時期に、近所の悪ガキと毎日喧嘩。
お坊ちゃまが多いこの学校で、毎日怪我の耐えない俺は、早くも不良のレッテルを貼られて、遠巻きにされた幼稚園、小学校時代。
中学になって全寮制になったせいで、ご近所の悪ガキと喧嘩することはなくなったが、遠巻きにされたまま、俺も、あまりまわりにこだわらないから、まぁーいいか。なんて、放置した。
親父に似て、一重で鋭い目つき。身長も前から二番目と低いため、上をみるだけでメンチきり。みあげればいいのに、視線だけで追うから、目つきがわるいったらない。
その頃ちょうど、携帯ゲーム機なんかでせっせと視力も悪くして、でも、眼鏡メンドクセェ。ってそのままにしてて目つきはさらに悪くなった。
高校に上がる前には、身長も伸びて後ろから三番目。見上げるやつなんてそうそういねぇけど、眉間にしわ寄せてものを見る癖が抜けないまま。
ご近所の悪ガキと、春休みに会って、ノリで、灰色のカラコン手に入れて、結構気に入った。服装に関しての校則が緩いから、それ使ってるうちに、神秘的だのなんだのと、勝手に噂は千里を走る。
灰色のカラコンだけやってるってのも何か中途半端だろっていうんで、髪型は前より遊んで、せっかくワイシャツの下にシャツ着て首元まるまる見えてんだしって、鎖骨にピアスぶっ刺して。
そんじゃ、もっとせっかくだし、っていうんでピアスを適当に散らしてたら、なんか楽しくなってきた。
ちょっとやりすぎた、イヤーカフできねぇし。とかってちょっと控えめにして、指輪したり腕輪したり。
鏡みたら、あ、こんなチンピラ、街でみかけるわ。
なんて。
そんなこと思っていたら、高校一年2学期あたりで、呼び出しくらって、ぶん殴られる。
痛いものは痛いけど、手ェあげたらクソ面倒。不良なわけじゃねぇし、喧嘩したいわけでもない。
でも、エスカレートしたやつが、殴りまくって、なんかの拍子、飛んでったピアスは俺のお気に入り。
あ。って思ってたら、ピアスは踏み潰されて、俺はぶち切れた。
それ、いくらしたと思ってんだ。
いや、安かったけど。こっちだって気に入ってんだ。
と怒涛の反撃。
停学くらって、気がつきゃクラス落ち。
成績だけはよろしいまま、落ちたクラスでウザイながら絡まれ続け、それでも喧嘩せずに無視ってたら。
貞操の危機と、くそくだんねぇイジメにあって。片っ端から殴り倒したその結果。
落ちたクラスで頭を張ることに。
なに、この尊敬のマナザシ。意味わかんねぇ、きっしょくわるい。
そんなわけで、何話すわけでもなく、毎日席ついて寝て、おきて、飯食って。
別に何するわけでもねぇ、勝手に傍に来る奴はおいといて。
なんだかんだで面白い奴とか、気が合う奴とはそれなりに話して。
とまぁ。至って普通に学園生活謳歌してたわけ。
『Fクラスのトップ』だとか、そういう名前は勝手にいっといてくれよと。
思ってたわけよ。
極めつけに出たのが『白銀の蝶』だ。
白銀は、なんでも、つけてる灰色のカラコンが稀に欠伸して目が潤んだ拍子に光って銀に見えるらしい。
蝶というのは、俺がつけているアクセサリーに蝶のモチーフが多いせいだろう。
シルバーの蝶ばかりを扱っている『Spider's web』というブランドが心底好きなだけなのだが。
たぶん、白銀ってのは、そのせいも有ると思う。
外見的なものからいうと、蝶のような綺麗というか繊細というか…そういうものはないと思う。
そんな噂が歩き回って、こっぱずかしくなってきたころ。
人数の関係で一人部屋になっていた俺の部屋に、ある男がやってきた。
そいつは俺とは違った天然ものの青い目で、俺をじっと見て、こういった。
「ダチになってくんねぇ?」
少し緑がかった青い目が物珍しくて、ついつい頷いてしまった俺は、そのときから、その男に翻弄されていたに違いない。
別に何やるわけでもなく、雑誌読んでも、テレビ見ても、傍で俺を見ているやつ。
クラスの連中とそんなかわりないけれど、たまに、雑誌を覗いてそれいいなっていったり。
俺の服装見てそれ欲しいっていったり。
なんとなく、趣味が合う。そんな感じだった。
「欲しいならやろうか?」
なんて。
たまにやると、そいつは上機嫌。
「サンキューちぃ」
そいつは俺が『白銀の蝶』という名前を恥かしがっているということをしっていて、蝶から、ちぃと呼んだ。
俺はそいつの名前は知らないし、部屋以外で会うこともなかったから、そいつをずさんに呼んでいた。オイ、だの、オマエだの。
そんな日々が二年の半ばぐらいまで続いた。
ある日、転校生がやってきて、俺の部屋がようやく二人部屋になった。
そいつは来なくなるだろうなと思いながら、転校生にそれなりに挨拶。それなりに、学園について説明して、それなりに付き合って、めったにいかない食堂なんていった。
生徒会なんて、それこそ近いけれど遠い世界だと思っていたのに、同室者目当てに近づいてきたりして。
騒がしいな。とぼんやりしていると、ふと、誰かと目が合った。
ああ、オマエ、そんなとこにいたのか。
生徒会に夢中な同室者を尻目に、軽く手を振ると、そいつは目を見張る。
そのあと、唇が『ちぃ』と言って、笑った。
格段にそいつを地味に見せている眼鏡の下で、青いだろう目も笑った。
たぶん、俺はそれだけで、フォーリンラブ。
ああ、名前、聞かなきゃなんねぇな。なんて、思った。