テフテフ2


その日の騒ぎを纏めると、だ。
転校生が、『白銀の蝶』だとか言われている一年から三年までひっくるめた全部のFクラストップの生徒の同室者になり、生徒会連中に絡まれた。と。
それだけ。
相変わらず坂崎さんは、Fクラスの幹部連中と呼ばれる人間から見ると適当だった。
同室者の転校生に適当に返事して、滅多にこない食堂で飯食って、誰か知り合いがいたのか軽く手まで振っていた。
ちょっと笑っていたのは、珍しいことであったが、驚くほどのことではない。
あの人は、意外と適当だ。
幼稚園から中学まで遠巻きにされていたのに、ずっと、ま、いっか。と思っていたらしい。マイペースにもほどがある。
友達らしい友達は、実家の近所に住む幼馴染とその友人くらいだったと言っていたが、遠巻きにされてもそれなりに、各授業でペアになる奴、飯食うとき一緒のやつ、とかクラスにはいたからと。
毎日何処いくにもつるむ奴ってのはいなかったけれど。と。
その、各授業でペアになり、且つ、飯食うとき一緒だった奴である、今現在のFクラスの生徒以外の不良として一匹狼になってしまった潮見(シオミ)さんが、俺もクラス落ちしてぇ…とか言っていた。
高校デビューだったのかなんなのかわからないけれど、春休み開け、突然派手になった坂崎さんは去年の三年生に絡まれて、何か怒ってブチ切れ。
停学食らって、停学あけてクラス落ち。
Fクラスで、不毛極まりないイジメとセクハラを受ける。
毛色がそろわず、ほぼクラス代わらないFクラスは排他的。
ヤンキー以外も意外といるが、誰が何してても仲間以外はどうだっていい無関心。
それが普通だし、無駄に突っかかっていったりするのは、刺激が欲しい奴だけ。
だから、ごく一部に虐められた坂崎さん。ごく一部にセクハラされた坂崎さん。
つっかかれても、絡まれても、俺たち以上に無視をしていた坂崎さんは、バケツいっぱいの生ゴミ爆弾をぶっかけられそうになった時点で、不快な顔をして、それをけしかけた連中を片っ端から吊るし上げて、問答無用でそいつらに用意された生ゴミを浴びせた。
肩抱かれたって、ケツ触られたって、ハラって、嫌がるばかりだった坂崎さんは、本気で迫られ、強姦しにきた連中のブツを片っ端から踏んだ。
一部目覚めてしまった奴がいたのは、ちょっとした誤算だったようだ。
まぁ、つかえなくなった奴はいなかったらしいから、手心は加えられていたんだと思う。
そんな坂崎さんを尊敬の眼差しで見始めたのは、不良とは関連性がない奴らから。
何されたって文句言わないし、溜息すらつかない。態度を誰に対しても変えない坂崎さんは、掃除だとか係だとかをサボったりはしない。
与えられたことはわりと、きっちりこなしてくれる。
係なんて面倒なヤンキー連中は、ヤンキーじゃない奴らに係も掃除も押し付けて、サボりたい放題。
坂崎さんは、真面目にやってるやつにも、サボってるやつにも態度は変えないで接するし、無意味に睨んだり脅しつけたりなんてしないから。
坂崎さんの目つきの悪さや、周りに興味ないっぷりに近寄りがたかった連中とふとした時に話をしたらしい。
真面目な連中が嬉しそうに、ぜんぜん怖い人じゃなかったと。そんなことをいう。
それに興味をもったのが、俺がつるんでる連中。
クラスのまとめ役みたいな連中。
それとなく傍にいてみると、なんか、坂崎さんは心地いい人だった。
話しかけたら、返事はしてくれるし。
当たり障りのない会話だってする。
至って普通の人だった。
至って普通の人どころか、独特なマイペースさが、ちょっと癖になるような人で。
癖になっているうちに、ふとした時、傍に居られることが嬉しくなる。
嬉しくなってる間に、気がつけば、なんだか、よそでカッコいいといわれていることが、当たり前だろ!とか、そうだろ!とか思えるようになってくる。
自慢に思っていたら、ホントにスゲェ人なんだなって、ふとした瞬間に気がつく。
坂崎さんのすごさは、さりげない。
さりげなく、通れなくて困ってる奴の道を作ってやったりとか。
不毛なイジメやってた連中と何時の間にか普通に会話してたり。
強姦まがいのことしてきた奴らとも何もなかったかのように普通にしていたり。
そんなのは、普通じゃないのに、あまりにも普通になっていて。
それが、あまりにもさりげなさ過ぎて。
日常に埋もれてしまう。
坂崎さんが当たり前のようにするだけで、何時の間にか、そのすごさを感じる。
けれど、そんな解りにくいくらいのもので、Fクラスの皆が皆、坂崎さんを尊敬したりなんてしない。
あの人が尊敬されたのは、Fクラスで目立つ俺らが懐いてしまったがために、Fクラスの当時の二年、三年に目を付けられたことからだ。
俺らが調子付いてるといわれるくらい目立っていたせいで、その俺らが懐く坂崎さんは親玉扱いされて。
リンチにあったのだ。
二年、三年の、リンチ。
俺らが行ったとき、坂崎さんはボコボコ蹴られ、踏みつけられ…。
俺らがきれてかかっていったって、どれだけ二年、三年を潰したって、数には負けて、しまって。
なんだ、お前ら、つまんねぇ。
って、当時のトップが言った。
「……坂崎は、何で無抵抗で殴られるかねぇ」
トップが言った言葉に驚いているうちに、坂崎は一言ポツリとこういった。
「心底、どうでもいいからだ」
ぼそぼそとどうでもよさそうに、聞きとりづらい声で。
あ、面倒だったんだ。喧嘩、どうでもよかったんだ。と理解したときには、ふっざけんなと八つ当たり気味に俺をボコボコ蹴るやつがいた。
「…ナァ。なんでそいつ、蹴るの?」
それが合図だったみたいに、坂崎さんの何かが飛んだ。
俺らが、怒って喧嘩に入ってボコボコにされることはそれは、仕方ない。喧嘩をしにいったんだから。
けど、坂崎さんがいったことで、ボコボコにされるのは、別。
そういう区分が坂崎さんにはある。
そして、坂崎さんにとって、俺らは少なくとも心底どうでもいいことではなかったし、それなりに気が合うの分類だったらしい。
それでまた、停学をくらってしまったけれど。
坂崎さんは指の骨折ったり、足の骨おってたり、肋骨おってたり、肩脱臼したりと、壮絶な有様ながら、俺を無駄に蹴った奴と、それからそれを助けにいったやつ、とにかく群がってくる奴ら全員地に沈めて、言ったのだ。
「イテェし、クソつまんねぇし、意味わかんねぇし。そろそろ立ってんのもしんどいし、なぁ、もう、後日でいいか?」
筋とか靭帯とか神経とか無事でよかったってくらい…無茶なことしてて、俺ら、もう、泣いた。
泣きながら、もうすんなって怒ったら、『すまん』だって。
頭なんて、上がるわけねぇし。
後日、二年トップと三年トップとFクラトップがやってきて、坂崎さんにトップの座につくように言った。
俺らみたいな連中は大概仲間思い。三年のトップは坂崎さんの姿に感銘を受けて、二年のトップは坂崎さんの暴力的な強さに惹かれた。Fクラのトップは、坂崎さんの一応見舞いに来たときに、何かひと悶着あって、すごく坂崎さんに惚れ込んだらしい。
適当で、マイペースで、喧嘩が強くて、でも、面倒くさがりで。
そのくせ、納得がいかないことには、とことんだし、どうでもよくないことは大事にしてる人。
そりゃあ、俺たちがついていきますってなっても仕方ないだろ。
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