テフテフ4


中学の時、シルバーアクセサリーづくりにはまった。
手先が器用で何か作ってんのが好きだった。
兄貴の友達のショップに、遊び心と悪戯心で、兄貴が勝手に俺のシルバーアクセサリーおいたのがきっかけ。
その頃の俺は、ただ、蝶を納得いく形にしたかった。作って作って毎日作って、その内の一個が店におかれたなんて知らなかった。
その一個が売れた。という事後報告をきいて、俺は兄貴を殴った。
バカ言うなって。
俺はそれ以来、蝶なんて一匹もシルバーで作らなかった。
ある日、裏庭で誰かが呼び出し受けてたのを見た。
そいつは耳に蝶をぶら下げていた。
その蝶は、俺が作った蝶だった。
蝶のアクセサリーなんてたくさんあるのに、俺はそれを確信していた。
蝶は飛んで、踏み潰されて、無残な姿になった。
そいつは怒って、誰かを殴って、地に転がした後、そっと宝物みたいに壊れた蝶を拾い上げた。
ああ、あの蝶は愛されてたんだなぁとか本気で思った。
そいつは停学になって、しばらく学校にはいなかった。
ただ、兄貴が俺にメールをくれた。
おまえの蝶のアクセサリーを探してる奴がいる。
すぐに、あいつだと思った。
あいつしかいないと思った。
俺は一心不乱に蝶のアクセサリーを作った。作って作って作りまくった。
兄貴が勝手にSpider's webという名前のブランド名をつけていた。
そしてそれなりの人気がこっそりと出てきた頃、俺の蝶を愛用するアイツが『銀の蝶』と呼ばれはじめた。
アイツこそが、蜘蛛の巣を張り巡らせ、蝶を捕えた本人なのに、蝶だと言われる。
笑いながら、俺はアイツを遠くから見る。
俺の蝶は毎日アイツにとまる。
耳に、鎖骨に指に、腕に、胸元。
アンクレットをつくれば足にもつけてくれるのだろうか。
けれど一番好きなのはアイツの鎖骨に止まる蝶。
次に好きなのは耳の軟骨に止まる蝶。
毎日つけて、もらいたくて。
毎日、いろんな蝶を考えた。
ピアスを特にたくさん作った。
毎日毎日、遠くから眺めて足りない気がしていた時。
納品したあと時間が足りなくて不法侵入みたいにして帰ってきた寮で、たまたま開いてた窓からこっそり人の部屋に入って、そこで見つけたボロボロの蝶。
こっそり入って、そこから、自室にこっそり帰ろうと思っていたのに。
ぼろぼろの蝶に涙が止まらなくなった。
まだ、この蝶は愛されてるんだ。
うれしくて、うれしくて。涙が止まらない。
でも今、見つかるわけにはいかない。
やっぱりこっそり部屋を出た。
アイツは風呂にはいっていたらしい。
よかった。と思いながら自室に戻って、俺は久しぶりに蝶以外のシルバーアクセサリーのデザインをかいた。
それは、花、だった。
俺は翌日、アイツの…坂崎の部屋に押し掛けた。
突然の申し出に、アイツは変な顔をしただけで、いつ俺が部屋に行っても、かならず中に入れてくれた。
「ちぃ」
と呼ぶと、ちょっと微妙な顔をするところが可愛かった。
「何やってんだ、バァーカ」
俺が、うたた寝してソファから落ちたのを笑う顔も少し幼くて可愛かった。
俺と趣味が合って、正直に欲しいというと、たまに服なんかくれるのがすごくうれしかった。
俺はちぃが、好きで。
たまに、蝶を手入れしてる姿なんか、嬉しくって泣きだしそうになる。
俺の蝶が愛される。
その蝶だけじゃなくて、俺もついでに愛してくれよと、俺は末期の病気。
なぁ、俺を見ろ。俺を見ろよ。
いつもより騒がしい食堂。
目の色を気にしてかけている眼鏡越し、ちぃと目が合った。
ちぃは俺を見つけて軽く、手を振った。嬉しくなって俺は笑った。
音にもならない俺の声に、ちぃが笑ってくれた。
ああ、なんか幸せ。
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