テフテフ5


坂崎は俺の初めての友人だった。
そのつもりだった。
坂崎の友人というのは、聞いたことがないというのはFクラス連中のいうことだ。
坂崎自体は、ちょっと親しいとか、ちょっとしゃべるとか、その程度で認識しているらしい。
そうなると、俺は坂崎にとって、ちょっと一緒になんかやる程度の男である。
俺は坂崎とは、ずっと同じクラスだった。
それは今いるクラス連中ほとんどにもいえる。
なぜなら、学園は徹底した持ち上がり制であるからだ。
クラスが違えるということはよっぽどのことがないとない。
そのよっぽどのことがあり、坂崎はクラスが変わってしまった。
俺は昔から、なんというか、満足してしまったら、他のものに手がでない。
たとえば、好きな食べ物。
気がついたらそればかり食べている。
それと同じで、友人というのは坂崎だけで充分で、つまり、クラスから坂崎がいなくなってしまうと、友人という奴が近くにいなくなった。
坂崎は至ってマイペースで、色々なことに頓着しない奴であるから、俺が不良のクラスだといわれるクラスに顔をだしても、同じクラスだった頃と同じように、話をする。
俺も、坂崎と友人とは思われていないと知ったけれど、坂崎といると、友人という枠にたいした意味はないんだろうなと思えてくる。
しかし、それは坂崎と一緒にいるときだけだ。
クラスに戻って、普通にしていれば、俺は何故かはぐれてしまった不良で、しかも、坂崎で満足していたから、クラスでは一人だ。
ただ、クラスは恐るべき持ち上がり制だ。
皆、俺や坂崎がどういった奴かなんてことはよく知っている。
無視するで無し、いやがるでもなく、普通に話しかければ、普通に答えが返ってくる。
至って普通のクラスメイトだ。
ずっとクラスが同じ分、嫌いなら嫌いで距離をとるし、好感をもっているなら好感を持っているで普通に接してくれる。
わざわざ嫌いに来てくれるやつもいない。
だから、特に寂しいとかは、やはり、思っても、孤独とまではいわない。
「……坂崎って人気もんだよなぁ」
転校生が呟いた。
坂崎の同室者だというこの転校生は、大変、色々な連中にうらやましがられた。
「あいつは、気配り上手だから」
似合わない言葉だ。
究極のマイペースである坂崎は、自分がマイペースにするために、他人のペースを崩すことを良しとしなかった。
他人のペースを見極めた上で、自分自身が、マイペースに動ける方法を探し、それを体現していた。
故に、こっそり気配りができる人間のようにみえ、水面下で人気があった。
現在は、Fクラスで色々あったおかげで堂々たる人気者だが。
「おまえも、以外と話せるよな、初対面あんなだったけど」
「いや、あれは動揺して」
転校生とは、ある時から一緒に飯を食う仲となった。
色々と騒がしい坂崎とも一緒に飯を食うようになった。
今頃、坂崎は俺のことを、一緒に、飯を食う仲だと説明してるんだろう。
そう思うとなんだか、笑える。
「今度、大杉(おおすぎ)も誘おうぜ」
「大杉は、目立つの嫌がんだろ」
「でも、あいつ、楽しいし、目立つとこ行ってもうまいことステルスするぜ」
「いや、それは大杉に失礼だろ」
「おまえ、律儀だよなー。不良なのに」
前から思っていたが、俺は不良じゃない。
断じて。
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