嫌いなもの。
飲みさしの牛乳パック、梅雨時の食パン、結露がたまってできたコップの下の水溜り。
渋谷くんの……。
……そんな顔せんといてや。



隣の席の渋谷くん。10



「この前のごめんなぁ?ちょっとした、のりやってん。ほんま、ごめん」
手を合わせて、笑うと、渋谷くんが眉間にたくさん皺を寄せた。
「不快やったろォ?いやもー、ほんま、マジないわぁって、おもててん」
なかったことにしようぜ。な流れ?ニコニコニコニコ笑いながら、流そうぜ。おふざけだぜ。でもやりすぎちーった☆って、それでいいとおもってたんだけど。 なんなんだろなぁ。
渋谷くんの眉間の谷間は深い深い。もう、絶壁。
俺のそういうのり、嫌いなのもよくわかる。不愉快って顔に書いてある。
書いてあったの。話し始めたとき、不愉快って。
だんだん渋谷くん、怒ったみたいな顔して。
俺を睨みつけてたのにさ。
「な?やから、渋谷くん、気にせんでえーえよ」
そういったとたん、渋谷くんは、だんだん、眉間の皺を寄せたまま、視線をそらして、なんか怒ってるくせに悲しそうに。
「ねぇことになるわけねぇ」
なんて言うの。
「えー?そんなに、おこっとるん?や、ごめんてー」
渋谷くんは俺をもう一度見た。
手を伸ばして、俺の頬を撫でる。
「人のこと振り回すのも大概にしろ」
指先が目じりに触れる。
困ったなぁ。渋谷くん、夏井さんにはあんなに、犬なのに。
俺には男前ってどういうことなの。
「…うん」
「…で?」
俺は渋谷くんの手を頬から外しながら、訂正をした。
「好きやぁ…めっちゃ好きやぁ。ごっつう好きや…!」
泣き落としかってくらい泣きべそかきながら、俺は渋谷くんにいってやった。あはーやっちゃった。
「ごめんなぁ、めっちゃごめんなぁ。好きなん…どうしても好きなん」
どうして、すきっていうだけで、謝りたくなるんだろ。
別に、渋谷くんに謝らなきゃいけないことしたのって、中途半端にしちゃったことくらいなのにさ。
「やから、忘れてや…」
「意味、わかんねぇよ」
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