ポケットに入れちゃいけないもの。
お気に入りの飴、たまに買うチョコレート、札、画面丸出しの携帯。
隣の席の渋谷くん。3
肌が密着するようなポケットに飴ちゃんをいれると最低だ。
生ぬるくなる。
それだけならまだしも、溶ける。最低だ。
仕方ないのでカバンのなかは飴ちゃんだらけ、それだけでは飽き足らず教室に置き飴ちゃんをする。
教室の一角に置いてある、棒つき飴ちゃんの刺さってる回転ツリーは、俺専用。
だけど皆が勝手にとって勝手に食うから、一時期利用しなくなった。
そうなると不思議なもんで、皆が淋しいだのすまんだの言ってツリーからとった分だけ補充してくれるようになった。
もうこのクラスのシンボルといっていい。
先生すら飴ちゃんを拝借していくし。
そのツリーから渋谷が飴ちゃんをとったことは一度もない。
そんな渋谷がめずらしく、ツリーの飴ちゃんを真剣に眺めてる。
「渋谷、なしたァー?」
話し掛けるといつも気だるげに俺を見る渋谷は、今回は眉間に皺を寄せて俺を見た。
「…2、3個ほしい。何がいいかわからねぇ」
自分が欲しいわけじゃないらしい。
差し詰め、夏井さんにあげるんだろな。
俺、超ジェラシー。
「そやねぇ。甘いの好きやったら、ミルク系とかお菓子系。フルーティちゃんやったら、フルーツ系。あと駄菓子な感じやったらジュース系がええと思ーよ」
それなのに、俺、超、親切。
俺のお薦めはミルク系。
とりあえずストロベリークリーム、プリンを手にとって、あと一つグレープを混ぜて渡す。
「関西…?」
あぁ…!そうだった、渋谷とここまで話すのは初めてでした。
俺、どれだけ無視されてたの。どれだけ。
「今更やんねぇ。まぁ、西のほやけど、関西ゆーわけでもないっちゅーかー。まぁーとりあえず、ソレ持ってきや。あ、それと」
バニラを一つ、渋谷の胸ポケに入れる。気障っぽくてちょっと……かなりサブイボ。
「これは、渋谷にねん。あ、気が向いたらホジューよろ〜」
もちろん、渋谷が補充したやつは俺の犬歯の餌食だぜ!
後日、補充されたのは全部チェリー。
渋谷俺に何かいいたいことあるの?