久しぶりに、鬼怒川の部屋に行った。
別々に暮らしていても、合鍵は持っている。
本人に確認をしていなかったから、女を連れ込んでいても、誰か他の友人といてもおかしくなかったが、その日の鬼怒川は珍しくベッドで寝ていた。
俺が訪ねた時間も悪かったが、まさか鬼怒川がベッドで普通に寝ているとは思わなかった。
いつ突然訪ねても女の気配がないし、かちあったこともない鬼怒川の部屋は、鬼怒川自体もあまり使っていなかった。
その日は仕事が終わって、なんとなくフラフラ飲んで、気分が良かったから鬼怒川の部屋に来た。
鬼怒川に会うのなら、鬼怒川の仕事場に行ったほうがいいのだから、本人に会いたくてした行為ではない。別荘に気が向いたから来たら、鬼怒川がいたといっていい。
俺は勝手知ったる他人の部屋で、鬼怒川の現在位置を確認したあと、汗を流すために風呂場に向かった。
そう思えば最近してねぇなと気がついたのは、シャワーの湯の温度を調整していた時だ。
最後にしたのは何時だっただろうか。そんなに昔のことではなかった気もするし、こうやって思い返すと結構昔のことのようにも思える。
「マジか。そんなにしてねぇのか……」
指を畳んで数えて、思わず呟く。
最後にしたときは、珍しく鬼怒川がその気で、俺に誘いかけてきた。
鬼怒川は俺を食うときも、俺に食われるときも誘う。何時だって俺を誘う。ただし、鬼怒川が自らその気になっているときは少ない。
ぼんやりと飯を食っている姿を見ていると、不意に笑うように目を細め、ささやくように薄く唇を開き、口に箸を運ばれたら、こちらはたまったものじゃない。
食事中だというのに、腰が疼いて仕方なくなる。
笑っているように見えるのに、こちらをまったく見ないのも良くない。視線が合いそうになると、うまいこと目を伏せるのも、本当に何処で学んだのか聞きたいくらいだ。
目を見ているのも毒だと思って視線をずらしたら、唇が見え、それも、目に毒だ。仕方なくどんどん視線をうつむけても、あの器用な手と、無駄がなく綺麗な所作に目を奪われる。
きちんと食卓についた鬼怒川省吾ほど、悪質なものはない。旧家の出とあって、あの男の所作は目を奪われるに値する。
それで居て、ひどく色気を感じる。
もともと、男としてエロくさい顔をしているし、雌が喜びそうな男らしい色気もあるのだから、それを仕舞ってしまうと、それがあると知っているだけに余計に少し、漏れた色気が毒気を孕んだ。
それが、わざとなされたとわかる行為でもだ。
思い返しているうちに、俺のものが半ばたっていた。
「……」
結構酒は飲んだはずだが、たたなくなるほど飲んでいなかったらしい。
俺は迷いなくそれに手を伸ばし、握り、親指のみを動かし、先端をいじる。
何をオカズにしたものかと考えずとも、この前の誘われた時の状況が思い浮かんだ。
あの時鬼怒川は、俺を対面から貫き、揺さぶり、それはそれは楽しそうに俺の指をしゃぶっていた。
それを見て食われているんだなと思い、倒錯的ではあるが、やたらと興奮した。
勝手に腰が揺れるのが良く、少し息を吸いたくなって口をあける。うまく呼吸ができずに浅い息を何度も吐いて、何度も吸った。
鬼怒川が俺の指を強く噛むと、痛みと同時にイきそうになって、思わず早くイけと要求した。あの時、鬼怒川は俺の指を口から零して、俺の中をかき回し、突いた。
俺は思い出し、物足りなくなる。
何が物足りないか知っていながら、先っぽをいじるのはやめ、強くしごいた。
「……っ」
していなかっただけある。
俺の射精は早かった。
早かったのだが、回復するのも早かった。なるほど、欲求不満である。
俺は、足りないもの……鬼怒川をたたき起こすことを決意した。