悪魔でシルバー



このたび、めでたくも面倒くさいことが発覚した。
「なんで、この年になってもテメェをまもらにゃならんのだ?」
国際ボディガードライセンスを取得した俺は、今、売れに売れているトップモデルとやらの依頼を受け、それのガードにあたるため、顔合わせをした。
依頼者の都合が云々とかいう理由で、顔をあわせるまで、俺は知らなかった。
ああ、しらなかった。
俺のせいで貞操の危機におちいり、あるときから、高校を卒業するまで貞操を守り続けた男が、そこにいた。
さらに、貞操を守りきったあと、大学に進学。
嬉しくないことにご両親に拝み倒され、大学という広い、外の世界に出てストーカーに付けねらわれた男のために守ってやること数年。
その後、俺は紆余曲折あって、ボディーガードになった。
なった結果がこれか。
世界規模のライセンスを取得したボディガードであるのに、三十路を前にして、これか。
そこには、かつて会長と呼ばれた、御堂新(みどうあらた)、および、モデルのシンがいた。
「そろそろ、魔法が使える年齢だが…」
「……くそ…、デリカシーねぇんだよだから嫌なんだよ…」
どうやらまだ、ファンタスティックな状態らしい。
まだ両想いになれないのか。
というよりも。
なにぶん大学時代はストーカーに狙われたり、変質者に好かれたりと、恋愛どころか人間不信になりかけた。
そのくせにモデルだなどという煌びやかな職業につき、天性の才能とやらを発揮。
スキャンダルにまみれる前に、仕事仕事で今現在といったところか。
恋人はなんですか、今は仕事がこいびとですね。かっこわらい。みたいな状態だろう。
俺は俺で、御堂がストーカーにパンツ盗まれたり、盗撮されたり、電話でハァハァされたり、監禁されそうになったりしている間も、青春をそれなりに謳歌。今は特に恋人は居ない。
軽く人間不信になりかけた人間に恋愛だなどとハードルが高いだろう。
特に、電話でハァハァと監禁されそうになった。には参っていたそうだ。
守りきれていないわけではない。
監禁されそうになってはじめてご両親に御堂はストーカーにあっていることを告げたのだから。
それで、引越しして、俺がそこに同居した挙句、ハァハァ電話に、ギャクセクハラ。パンツ何色?ビキニ?ピンク?黒ドット?今おなってんの?どういう状態?等々マシンガントークをした挙句、それは病気ですよ。という症状を列挙。医学的な、とってもデリケートで深刻な話だったわけだが。言い終わったあと、シーンと30秒ほど。ぷつっ、つーつーと切れた電話。
どうやら、電話の主は深刻な状態かもしれない状態だったらしい。
それ以来ハァハァ電話はかかってこなくなった。
傍らで聞いていた御堂も真っ青で、そんな恐ろしい病気が…と、おもわず確認したとかしてないとか。
ちなみに、俺はそういう病気になった覚えはない。
至って健康だ。
とにかく、そんなこんなでありとあらゆる心理戦と、健康と明るい未来について説得を繰り返し、通院とちょっとした世話をやいて、ストーカーを撃退。
今は実家のほうで妻と野菜を作っているそうだ。ストーカーは随分更生した。
ストーカーがいなくなったとおもっても、変質者は減らない。
電車でケツ撫でられる大学生男子。本屋でも撫でられる大学生男子。急に裸体を見せられる大学生男子。車に乗せられそうになる大学生男子。みてるだけでいいからといわれる大学生男子。急に背後から襲われる大学生男子。トイレに連れ込まれそうになる大学生男子。
危険がいっぱいな大学生活だな、御堂。
とりあえず、通学は、電車を諦めて俺のバイクに二ケツ。しばらくして、免許とって一人でバイク登校。これで随分ましになった。
家と、大学の間をいったりきたりする分には、 まったく問題なくなったといっていい。
駐車場は気をつけろよと、それだけだ。
痴漢対策グッズを携帯せざるを得なくなった大学生男子。
まぁ、襲われたときにどう動けば適切か。とか、護身術とかもそれなりに習って、なんとか大学生活を楽しむ方向にもっていけてよかったよかっためでたしめでたしで、俺は同居解消…の、はずが。
三年も守り続けて、俺が御堂新の魅力に参らないしっかりした人間だったかといえば、それは違ったわけだ。
もうそろそろ魔法使いになろうという男は…可愛かった。
親衛隊連中を会長の魔の魅力から軌道修正させた後、あの親衛隊はなんと会長を守り隊という部隊になっていた。
「風紀委員長様が、会長様を生涯守り続けてくださるなら…いいのに…」
だとか不吉なことを言い続け高校を卒業。
そのときはなんとも無かった。可愛いどころか、会長が憐れだなという思いが強くて、卒業時、強く生きろよ…と背中を見送ったくらいだ。
御堂は御堂なりにつよく生きていた。
つよく…それはもう、強く生きていたのだが、ストーカーに出会ってしまった。
そして、俺が召喚され、結果。ストーカーを撃退したあとも、変質者対策が終わるまで不当な疑惑をかけられないように細心の注意を払いながら付き合ってきたのにもかかわらず、俺が途中で御堂に参った。
俺としても誤算だった。
あの野郎、何でもできるにもほどがあった。
料理をしたことがないくせに、料理の本を見ながら感謝をこめて一生懸命料理を作りましたと、一番最初は材料大量に無駄にしやがったくせに、最終的には、美味い物を手際よく作りやがって、趣味は料理とか雑誌でも答えている。
というか、感謝をこめるところが料理だというのは、誰に吹き込まれたんだときいたら、親衛隊の元隊長に…とのことだったが。
何故つきあいがまだあるんだということもあったが、まだ、元隊長は俺が御堂を生涯守る…ひいては、嫁に貰えと、そういう願望をもっているらしい。
男の嫁は勘弁しろよと思っていたにもかかわらず、元隊長は心得ていた。
あの、男に尽くすことなんてしらなくていい御堂が、すっかり参ってしまって気が弱くなったところに俺という救世主だったわけだから、元隊長のこうすればきっと喜びますよ。という言葉に一も二も無くしたがって、感謝の意を表したのだから、俺はたまったものじゃない。
そのくせ、ちょっと脅しつけてやればしおらしくガタガタ震えるし、不安定になってはひとりでいるのを嫌がって、ついてきやがるし。
くそッ…伊達に、風紀委員長とか満了してないんだぞ、俺は。
就職先もボディーガードとか、本当に、どれだけ、俺がそういう人間に弱いことか!
ほだされまくってんじゃねぇか!
気がついたときにはすでに遅い。
人間不信にすらなりかけた御堂は、やっぱりそれなりに性的なものは苦手になっていて。
つまり、俺は御堂をそういう目で見る前にジワジワと後退どころか、潔く、じゃ、海外行くから。とあっさりいなくなったわけで。
なかったことにしたつもりだったのに、御堂と再び、24時間警護だなんてかたっ苦しい警護体制で毎日毎日一緒と。
ましなのは、これは仕事だということ。
仕事というかせがあること。
「あー…気心しれてっけど、めんどっちぃ…」
悪態はつきまくるが。

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