悪魔でシルバー6



やってしまったなと思える冷静さはある。
俺の仕事は御堂を守ることであって、こうして御堂を危機に貶めることではない。
本当は冷静に対処しなければならなかった。
ストーカーが何を言おうと、御堂がどんなにおびえようと、俺と御堂がどんな関係にあろうと、俺が御堂をどう思っていようと、ストーカーを煽るようなことを言ってはいけなかったし、してはいけなかった。
個人的な感情が先立って、こうなってしまう可能性があるから、本当は御堂のガードなんて引き受けるべきではなかったのだ。
悔いるのは後だ。
今は落ち着かなければならない。
そう、落ち着け。
「おまえなんておまえなんておまえなんて」
ブツブツと呟きながら俺を睨むストーカーから御堂を庇うように立った俺は、ストーカーに集中しているようにみせかけ、辺りを見回す。
俺の後ろには動きが鈍い御堂、その後ろに出口。
俺の向かい側にストーカー、その後ろに窓。
右に便器、左に個室。
ストーカーとの間は、二、三歩。
幸いにも、まだ出口付近にいる。
「御堂、水木さんとこまで走れ」
小さく呟く。
平素の御堂なら、この状況でなにをすればいいかなんて解っているから、ちゃんと頷いてくれただろう。
しかし、今の御堂はいつもと違う。
俺の服の裾を握ったまま、動こうとしない。
舌打ちしたい気持ちを抑え、俺はもう一度、御堂を呼ぶ。
「御堂……新」
「……、な」
俺に呼ばれたこともなければ、最近はあまり呼ばれることもなくなっただろう名前を呼ぶと、御堂は少し遅れながらも反応した。
「水木さんとこまで、走れ」
裾を掴む手の力が強くなる。
俺はもう一度言う。
「走れ」
俺の言葉にいっこうに答えない御堂の代わりに、ストーカーが反応する。
「なんでずっとひっついてるかなぁあ?なんでまたなかよさそうにしてるかなぁあ?俺のシンなのに、俺の俺のシン」
御堂の手をはたき落とす。
御堂の顔が見えなくて良かった。
見えていたら、この状況なのに罪悪感に捕らわれていたに違いない。
近いからなのか、御堂だからなのか、御堂から疑問と衝撃を感じとった。
俺は後ろは見ずに、半歩前に出て、御堂を後方に押す。
御堂がたたらを踏んだあと、走り出した足音がした。
「シン?シン。シン、シン!」
御堂の行動に、ストーカーが手を伸ばす。
俺はそれを阻むように、御堂を隠すようにその前に立つ。
「おまえが、おまえがおまえがおまえが」
このまま誰かが来るまで呟き続けてくれればいいのだが、ストーカーは行動派だった。
「おまえがっ!」
一際大きな声を出すと、俺に襲いかかってくる。
特に武器になるようなものは持っていない。
だが、何をもっているかは解らない。
油断はしない。






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