悪魔でゴールド6
なんでとは、俺が聞きたかった。
どうして俺がいつもいつも変質者に狙われなければならないのかとか、どうしてここに都賀がいるんだとか。
都賀がいなければ、俺は動けなかった。
また拉致監禁されかけていたかもしれない。
手を離されるのも、俺に走れというのも、都賀は当然なことをしただけで、あの場合は正しい。
俺は誰かに助けをもとめなければならない。俺や都賀の味方だと思われる誰かに。
しかし、それでも、俺はあのとき、手を離したくなかったし、あの場から逃げたくはなかった。
俺は強くない。
いつも肩肘を張って、見栄を張っている。
大丈夫だと見せるため、もう俺だけでいられるんだと思わせるため。
俺は、意識し続けている。
誰かに大丈夫だと、誰かに手間なんてかけさせないと、意識し続けている。
都賀がいなければ、俺は何もできないのではないのかと錯覚するくらい、それがあって、俺を作っている。
「あ、シン、ちょうどよかったわ!」
カメラマンと話をしていた水木さんは、走ってきた俺に、首を傾げつつ、声をかけてくれた。
「都賀くんに伝えなければならないことが……シン?」
俺は少し息を整え、水木さんを睨みつけるように見ていた。
水木さんに腹をたてているとかではなく、水木さんに伝えたい言葉が出ないからそうなっているだけだ。
「都賀、都賀が、庇って、トイレ」
「あら?やっと、便所っていうのやめてくれたの?」
都賀といい水木さんといい、どうしてそういうどうでもいいところに食いつくのだ。
俺は一度大きく息をはき、小さく息を吸う。
「クソカスと遭遇して、都賀が」
慌てる俺を見たことがない水木さんは、少しの間、何度も俺の口から出てくる都賀と俺の口から出てくるその他単語から意味をみつけようとして、首を傾げていた。
「都賀が、変質者が、新人が……クソッ」
あまりに情けない自分自身に、一度足を踏み鳴らす。
「ストーカーとトイレで会ったの?」
水木さんは確認するように俺にそういいながら、目を見開く。
あの新人カメラマンは、ストーカーだったのか?
今の今まで、狙われていた覚えがない。
けれど、あの、新人カメラマンの状態は、昔、拉致されかけた時と、よく似ている。
「都賀くんが一緒だったの?」
俺がストーカーという名称に衝撃を受けている間にも水木さんは、浅野さんを呼んだ。
「浅野くん!一番近くのトイレにほかの人と行って!」
水木さんの逼迫した声に答え、浅野さんが近くで話していた撮影スタッフと一緒に走り出す。
「俺も」
「あなたはだめよ!」
俺の腕を両手で掴んだ水木さんが、必死に俺にいい募る。
「あなたは、だめ!」
今度は水木さんが俺に、うまく自分自身の気持ちを伝えることができないらしい。
何かいいたそうに口を開いては閉じるが、『だめ』としか言わない。
理由はヤツが興奮するからだとか、俺が狙われているのだからとか色々あったのだろう。
だが、俺だって都賀の元に戻りたい。
ここにくるまでは、そこが一番安全な場所だったから、そこにいたかった。
今は、都賀が危険な場所にいるから、そこに行きたい。
悪魔でシルバー
結局公私混同。
悪魔でゴールド
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