悪魔でゴールド7



いつもそうだ。
学園にいた頃もそうだったし、大学に通っていた頃もそうだった。
事件は俺の目の前で起こるのに、いつも、俺の手を離れ、どこか遠くで解決する。
恋愛ごとも、俺自身が関わる事件も、そう、いつも、最終的に俺の手を離れていってしまう。
時間が立つにつれ、昔のことを思い出し、俺は自分自身の不甲斐なさを噛み締めていた。
あの時はこうだった、ああだった、こうすれば、ああすればとどうにもならないことを後悔し始めた。
前向きでいられたのはいつまでだっただろうか。 後ろ向きになったのは、いつからだったのだろうか。
暗いことを何度も何度も繰り返し考えていると、時間が経ってしまったらしい。
俺の見える位置、とても遠くに、新人カメラマンが現れた。
両腕を二人の人間から掴まれたヤツは、ピクリとも動かなかった。
騒ぎに集まった疎らな野次馬たちを挟み、結局、水木さんに腕を掴まれたままどこにも行けなかった俺は、ヤツを遠くから眺めていた。
俺はそれを見ると、何故だかすとんと力が抜けた。
こんなに遠く、人に押さえつけられているならきっと大丈夫だ。そう思ったのかもしれない。
ふと都賀が傍にいないことに気がつき、何かあったのかと不安に思いながらも、顔には出さず、水木さんにもう大丈夫だからと言った。
「あいつが離れるまではね」
そうはいうものの、明らかに俺の腕を掴んだ手の力はゆるんだ。
俺が落ち着いているように見えたからかもしれないし、犯人が捕らえられていたからかもしれない。
俺は水木さんの手をそのままに、きょろきょろと辺りを見渡す。
「都賀は……」
何処にも都賀の姿が見あたらない。
「あら、そう思えば何処かしら」
水木さんの問いに答えるように、疎らな野次馬の間をすり抜け浅野さんが俺たちに近づき、小さな声で言った。
「都賀くん、何かこっちに持ってきてたかな?」
「いいえ、持ってきてなかったと思うけど……都賀くん、何かあったの?」
「いやそれが、俺たちが行ったときには既に犯人を取り押さえてたんだけど、ちょっと怪我してて」
「怪我ァ?」
思わず大きな声で浅野さんの言葉を繰り返してしまった。
少しのざわめきが、耳につく。
「いや、大した怪我じゃないんだけど……」
「でも、ここにいねぇじゃねぇか!」
「あ、いや、控え室で手当」
俺のいつもとは違う言葉遣いと態度に浅野さんが少し驚きながら、小さく都賀の居場所を教えてくれた。
控え室が何処の控え室かは解らないが、控え室がある方向を睨みつけ、俺は思わず水木さんの手を振り解き、足を踏み出そうとしていた。
先ほども耳に入ってきたざわめきがだんだん近くなり、少し悲鳴じみて聞こえたあたりで、俺は控え室が並んでいるだろう場所がある方向から、近づくざわめきに視線を向ける。
そいつは俺に向かって走ってきていた。
何か光るものを持っているのがよくわかる。
距離にして言えばまだまだ遠く、俺に近寄る前に誰かに止められそうなものだった。
しかし、俺は、何とも言えぬ心持ちで、そいつを睨みつけた。
都賀が怪我をした。
誰のせいで怪我をしたのか、誰が怪我をさせたのか。
俺の向かって走ってくるヤツを見れば、それは明白だ。
先ほどとは違い、体が熱い。
俺は、水木さんや浅野さんが何か言っているのを無視して走り出す。
ヤツの方に向かって走り出す。
光っているのは、刃物か。
それで刺されれば、怪我もするだろう。軽い怪我ならまだしも、後遺症の残る怪我だったかもしれないし、もしかすると都賀が、死んでいたかもしれない。
しんでいたかも、しれない。
マイナスな可能性を頭に浮かべながら、近くにきた、明らかに正気ではない目で俺を見るそいつがまっすぐ俺の懐に入ってこようとするより先に、俺がそいつの懐に入った。
俺の腹に向かって突き立てるために出された刃物を持つ手を右手で横へとそらし、ヤツの懐に入ると、顎の下に左拳を突き上げる。
右手で、ヤツの左手首を掴み、握りしめ、そのまま持ち上げると、足払いをする。右手は握りしめたまま、うまく立っていられないそいつを見下ろす。
右手の力が強くなる。
俺はいつの間にか歯を食いしばっていた。
何をしているのか、よく解らなかった。






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