銀メッキ2



御堂は行動力があるほうだ。
昔もその行動力から何度も何度も告白しては振られるという行為を繰り返した。それは前向きだからということもあったが、それ以上に本人の性格が原因ではないだろうかと、俺は御堂を見上げながら思う。
ストーカーに襲われようと抵抗し、ガタガタ震えるだけを是としなかった負けず嫌いでもある。今でもストーカーのことはトラウマとしているくせに、負けるのが嫌いなのか、それとも考えすぎて行動してしまったのか、どちらも理由にあるのか、現在の俺にはどちらでもいい。
この、御堂新という男を自身のベッドに身体を預けたまま見上げるという現状について、どうしたらいいかということより大事なことはないからだ。
俺は現状を受け入れられず頬をつねることにした。
「……なんれ、おれのほおをつねう」
頬を引っ張られ、呂律も回っていないというのに、美形を損なわないのは、世の不条理だろう。
俺は頬をつねった指をそのままに、一度頷く。
「夢じゃねぇの」
「ひふんのほお、つねれお」
呂律の回らない御堂が情けない。しかし、この状況で御堂が情けなかろうと、問題はそこにはなかった。
「夢じゃねぇのか……」
「らから、てぇ、はなへって」
指を離すと、頬はほんのり赤く色づいていた。お休みライトとリモコンに書かれていた豆球の頼りない明かりの中でも、それが解る。解るくらいには、御堂が近くに居た。
「……夜這い、か……?」
俺が呟くと同時に、御堂の上半身が勢いよく遠のいた。
下半身はまだ俺の上に乗ったままだ。
「こ、恋人だから、問題ねぇよ」
そういう問題でもないような気がして、俺は身体を起こすべく、御堂の足の間から出て行く。抵抗はなく、ただ乗っているだけらしい。足はゆっくりとだが、御堂の足の間から抜けた。
「確かに、ウェルカムだが。おまえ、俺襲ってどうしようとしてたんだよ。夜這いっつったら、目的は限られてるとは思うが、できねぇだろ?」
足を抜くと、身体を起こし、御堂の近くで胡坐を組む。御堂はそのときには、何か悪いことをした子供のようにベッドの上で正座をしていた。
「で、できる……」
「正直に」
俺が腕まで組むと、足の上に手をつき、御堂は項垂れる。
「……できねぇ」
「なら、どうして、勢いで行動した?呆れるけど、怒らねぇから言ってみろ」
「呆れるじゃねぇか」
どうにもできないくせに、恋人のベッドに入り込むことの危険性について、まるで父親のように諭さねばならない俺の身になれば、呆れるくらいは大変優しい対応だ。
項垂れるばかりの御堂の頬に再び手を伸ばし、両手で挟む。顔を上げさせ、視線を合わせるとここ一番の優しさを顔に載せてやる。
「言ってみろ」
御堂はしばらく俺を胡散臭げに見てから、口を開いた。
「都賀、またいなくなるんだろ」
「そうだな、仕事でな」
「戻ってくる保障がねぇから、その……」
御堂はまた一人で考え悩み、挙句に身体で繋ぎ止めるという選択を取ったらしい。
言いづらそうにしているが、おそらくそれで正解だ。
俺は両手の間隔を狭くする。御堂の顔がつぶれて、さすがに美形には見えないが、惚れた弱みで不細工さが可愛い。いつも完璧ではないにも関わらず、完璧に魅せる容姿が俺のせいで不細工になっているというのもいいのだろう。
「俺がお前を好きで好きで仕方ねぇって解ってねぇだろ」
「……信じられるかよ、こんな面倒な馬鹿野郎なのに」
元親衛隊連中が聞いたら非難轟々だろうし、水木さんならばその面倒さが可愛いというだろうし、俺からすればその面倒があっても御堂がいい。
いや、その面倒があるからこそいいのだ。御堂という男は傍目から見ると完璧すぎて、俺からすればつまらない男である。






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