悪魔でシルバー2
有名人がボディーガードを雇うわけは、様々だ。
ボディーガードなのだから、身辺警護をしてもらいたいのはどの有名人も同じなわけだが、本人が望んでそうしたのか否かは分かれるところであるし、ガード対象として守られなければならないと理解しているか否かというのはこちらとしても大事だ。
「御堂は知らないことなのですが」
御堂と顔を合わせたあと、御堂のいない場所で御堂のマネージャーと話す。
御堂には有名になったし、今度のショーは大きいのだから何かあってはならないという理由でボディーガードを頼んだことにしているらしい。
しかし、理由はもっと他にあった。
「悪質なストーカーに狙われているんです」
またかと頭を抱えたい気持ちになりながら、俺はマネージャーの話に相槌をうつ。
「…御堂は、おそらく適当に選んだつもりなんですが、あなたのことは調べさせてもらいました。…御堂がやたらストーカー対策を身につけているのも知っています」
御堂は適当に見もしないで真ん中の資料のやつがいいと言ったらしいが、マネージャーが用意した資料は俺以外は白紙の資料だった。
最初っから選ばせる気がなかったのだが、誤魔化すにはそれくらいがちょうど良かったのだろう。
「それで、御堂さんはどれくらいの被害を?」
「ショーに出ることをやめろという脅しを事務所やマンションに送られています。マンションの郵便物はあるときから逐一、御堂がどうにかする前にマンション管理人の方にどうにかしてもらってます」
お前は狙われているのだとちゃんと知ってもらったほうがいいと思うのだが、マネージャーは怒った顔で、話を続ける。
「脅すにしても、触るのもいやになるようなものがかかっていたり、やめてもらいたい理由が、俺のシンが俺の許可もなくショーに出るだなんて、みたいなことで…」
ストーカーというのはどうしてこうも本人の気持ちの確認もしていないのに『俺の』とか使いたがるのだろう。いや、本人の気持ちを確認した上で『俺の』といっているのなら、また違った意味を持ってくるからこそのストーカーなのだろうが。
「シンは、性的なことが著しく苦手です」
その理由をしる俺は、思わず苦笑する。
離れているあいだも、変わらないことに少し安堵してしまった俺はどうかしている。
「どうしてそうなったかは、私よりもあなたの方が詳しいでしょう」
「ええ、そうかもしれません」
「ストーカー被害は、事務所から始まりました。…御堂には、何も考えず仕事をしてもらいたい……というのは、事務所としての建前で、私としてはあの子が怯えることなく、好きなことをしてもらいたいんです」
モデルの仕事が好きな仕事なのかどうかは判らないが、少なくともプライドなくしてあの男がその仕事をすることはない。
学生時代からそうだ。
負けず嫌いなところがあるあの男は、ストーカーに追いかけられてもそれでも、大学に通ったし、モデルなんてのも始めた。
あれの根本には負けたくないという想いがあるに違いない。
「知っていたとしても、この仕事はしていたと思いますけど…過去、あの子ががんばれたのは、きっとあなたがいたからだと私は思っているんです」
「……友人ですから」
「それだけかしら」
女の勘はするどい。
御堂自体のことをいっているのか、俺のことをいっているのか。
俺のことについては正解というしかない。
御堂はもしかしたら、ついていくべき親鳥のごとく思っているかもしれないが、好感は得ているという確信がある。
「仕事に私情は持ち込みません」
「…持ち込んでくださってもいいんですが」
いや、そうなるとあいつは怯えるだろう?
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