悪魔でゴールド3
都賀が、俺の部屋に泊まるとゴリ押ししてきて、なんでお前と四六時中一緒にいなければならないんだと文句を言った。
内心、ちょっと嬉しかった。
だから、都賀が遅いと思って管理人室に行ってしまったのだ。そこで、宮藤が泣きながら都賀にすがりついている様子に、思わず物陰に隠れた。
「あなたしかいないんです…!」
宮藤の必死な顔を見て、俺はエレベーターホールまで走った。
宮藤は、昔から俺に就いている執事だ。
執事というより、年の離れた兄のような存在で、十ほどしか違わない。
家人を顔で選んだのかというほど容姿は整っているし、俺と違ってスラッとした体つきをしている。
俺も世界に立っているモデルだから、身長はあるし、体重だって制限しているし、引き締まってはいるが、筋力量もコントロールしている。
けれど、どうしたって、骨格や持って生まれた体つきというか…とにかくそういったものが、人から見たとき、かっこいいと評されるものだ。
仕事柄それは歓迎されることだし、俺の姿形は、モデルとして羨ましがられるそれなのだから、嘆くべき点ではない。
だが、誰だって、ないものが欲しいものだ。
そのないものを宮藤はもっている。
物腰が綺麗なのも、優しいのも、無駄に突っ張ったりしないのも、羨ましい。
都賀が見ても、俺のような男ではなくて、少し中性的にも見える宮藤のような人間の方がいいに決まっている。
いや、そもそも、男よりも女のほうがいいのだろうが、もし、なにかあって男を選ぶとしても、俺ではない。
宮藤には世話になっているし、宮藤がいなければ、今の俺はいない。きっといない。
だから、宮藤が都賀しかいないというのなら、俺は、宮藤を笑って応援するべきなのかもしれない。
俺が高校時代にしたように、好きなんだろう?と背中を押すべきなのかもしれない。
都賀の気持ちは、見ていないからわからない。
宮藤も、もしかしたら、違うことを頼んでいるだけで、気持ちを確認するほど様子も見ていないし、違う気持ちなのかもしれない。
しかし、そう思うのは、少し、都合が、良すぎる。
背中を押す必要はないではないかと思う。
都賀は、好きじゃないかもしれないし、俺が、なにかする必要性なんて、少しもないのかもしれない。
「御堂?」
エレベーターホールで、ボタンも押さずにエレベーターを待っていた。
俺は後ろからやってきた都賀に振り返りもせず、エレベーターのボタンを押す。
「おせぇから迎えにきたんだけどよ」
じゃあ、なんでこうしてエレベーターホールで管理人室とは逆の方向を向いているのだ。
言い訳を考えながら、エレベーターの回数表示が下がるのを待つ。
俺のあとにエレベーターを使った人間がいるらしかった。
二つもエレベーターはあるのに、どうしてこういう時に限って上の階で止まってくれているのだ。
「立て込んでるみてぇだったから引き返した」
嘘は、つかなかった。
付けなかったのかもしれない。
皮肉に笑ってみせたが、俺は、都賀を振り返れないでいたから、都賀は見ていなかった。
都賀をみたら、俺は、きっと笑えなかった。
「立ち聞きとは行儀わりぃな」
「あんなところで話し込んでるからわりぃ。管理人室の玄関口で話してんなよ」
「そうだな。そりゃ悪かった。……で?お前は、何聞いたんだ?」
「何って…お前が抱きつかれてたから、引き返したんだ」
漸く、エレベーターの扉が開いた。
都賀の腕が俺を追い越して、エレベーターのボタンを押した。
「先入れよ」
「……サンキュ」
中でエレベーターのボタンを押す前に、都賀が入ってきて、最上階に上がるためにカードキーを通した。
「で、なんでそんなに俺と顔を合わせようとしねぇの」
「身内と友人のラブシーンって気まずいだろうが」
からかうように言えたと思いたい。
「ラブくねぇよ。鼻水スーツに付けられてちょっと、どうしようとか思ってたくらいだっつうの。お前、何、勘違いしてくれてんだ。宮藤さんにも俺にも失礼だろ」
軽く、俺の邪推を否定してくれる。
都賀が、そういうのなら、そうなのだ。
俺は、そう思うことにした。
悪魔でシルバー
本当のことしか言ってないのに、勘違いされている。
珍しく不憫。
出るときのエレベーターの扉は腕で抑えてエスコート。
悪魔でゴールド
打ち解けるどころか勘違い。
シリアス気味な内心を隠すのだけは割と上手。
ホテルマンなどにエレベーターの扉を抑えられるのは普通なので、エスコートは全く気にしないけれど、自分も自然とやっている。
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