愛してるといったって!


朝起きたら、晃二が変だった。
「皐?おはよう」
そういって、優しく微笑んで、頭を撫でる。
それを呆然と眺めながら、晃二がおかしい。とおもってしまったのは、仕方のないことだと思う。
普段なら、まず、起き抜けに『皐』だなんていわない。…そうでなくてもなかなか呼ばれない名前だ。
次に、優しく微笑まない。朝、俺より早く起きていたら、ベッドに留まっていることのほうが少ない。寝過ごすとベッドに晃二の体温すらのこっていない。
そして、頭を撫でる。これはよくされる。よくされるけれど、がっちり片手でホールドされた状態で甘やかすように撫でるだなんて、最近なかったことだ。
「……皐?どうした?なんかおかしくない?」
おかしい晃二からしても、俺はおかしいらしい。
俺は首をかしげ、言葉を捜す。
「……晃二」
「なんだ、皐も何がなんだかわかってないのか?おかしいとおもっているのか?」
…晃二がおかしいと決定付けたのはこれだ。
俺が言葉を発する前に返事をした。
だいたいは俺の言葉を待って、ニヤニヤしながら、言葉をまっている。言いたいことをわかっていながら、ニヤニヤと。
たまに時間切れだといって、何もきかないで無視することすらある。
それなのに、だ。
俺の考えていることを読み取り、しかも、返答までした。おかしい。
「おかしいか?なぁ、皐?」
晃二が優しい。何か優しい。
気持ち悪い。
思わずベッドの上で逃げ腰になる。
「皐?」
名前を何度も何度も呼んでくるけど、ドキドキはしない。心臓が痛くならない。呼吸が止まる思いもない。
これは、晃二じゃない。
晃二に似ているけれど、晃二じゃない。
そう判断して、ベッドから抜け出す。
「皐、なんでそんな…他人みたいな顔するんだ?」
他人だ。これは、俺の知っている晃二ではない。
顔も、髪も、…口調だって、真剣に話してくれるときは、同じ、だけれど。
俺の知っている晃二は、違う。
俺は、自分の部屋へ戻った。
俺の部屋に変わりはない。いつもの場所に制服、クローゼットも同じ内容。
今日、学校は休みだし、あの気持ち悪い晃二もどきから逃げるには、外に出るしかない。そう思い、携帯を手にとった。
携帯をあけ、眉間に皺を寄せる。
なんで、携帯の待ちうけがちがうのだろう。
本来なら、中指を立てて睨みつける晃二が出るはずだった。
何故か待ちうけは、十夜と雅、俺の三人でとった写真だった。
こんな写真をとった覚えはあるし、一時期待ちうけだった気もする。変えた覚えはないが…と思い、携帯を操作した。
待ち受け画像を選ぼうと思って、見てみると、カギつきのフォルダがあった。
そんなフォルダは作った覚えがなかったが、興味があった。いつも使っている暗証番号を入れてみると、暗証番号が違った。
何個かいれて、拒否されて…ふと、思った。
まさか、お約束的に、晃二の誕生日だったり、しないよな?
…ビンゴだった。
何か、酔った勢いか何かなのだろうか。気持ちが悪くて仕方ない。
カギつきフォルダにはもっと気持ち悪いものが並んでいた。
優しく微笑む晃二。苦笑する晃二。一緒にうつる俺と晃二。
とにかく、晃二の愛してるオーラとでもいうようなものがだだもれだった。
「キモ…」
呟いた俺には罪はない。
俺の携帯には確かに晃二関連のフォルダがある。
龍哉にもらった画像や、俺が撮った画像。人にとってもらった画像だ。
その大体が、晃二が楽しそうに笑うか、ニヤニヤしているか。とにかく、優しさや愛しさとは無縁の画像で、たまに睨みつけている画像がある。
だいたい、フォルダにかぎはつけていない。見られても困らないし、晃二の画像を見て喜ぶのは俺を含むごく一部だけだと思う。
「……こうじ…」
急に本物の晃二に会いたくなった。
なんだ、この偽物ばっかり状態は…。
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