もっさりヘアーに時代遅れな瓶底眼鏡。
赤毛の隣人が、珍しく誰かを見ているなと思ったら、何処かで見かけた姿の少年がそこにいた。
「変装?」
「そうだろうな。ヅラからちょっと髪の毛出てるしな」
誰かに追いかけられているようで、誰にも止められないようなスピードで走っている。
少年の後ろをみると、そこには学園で噂の素行の悪い生徒がいた。
…面白そうだな、と思った。
「ちょっと行ってくらぁ」
「ほどほどに」
「りょーかい」
ふわっと二階のベランダから一階の渡り廊下の屋根に飛び降りる。
屋根に騒音を響かせて、俺は走る。
意外と少年の足は速い。コレは捕まえられるだろうか…?
とりあえず少年と俺の進路が交わる場所まで走る。
「ちょ、まじねぇえし!」
と後ろを振り返り叫んだ少年と進路が交わる。
間に合ったな。
そう思うと少年とぶつかる瞬間に腕を広げ、少年を勢いよく確保。
後ろを見ていた少年は何がなにやら解っていない。
そして、後ろから追っていた素行不良の生徒が俺に向かって怒鳴る。
「そのまま捕まえといてくれ、那須(なす)!!」
「すまん、少年逃げたそうだから、俺このまま走るわー」
そう言ってやると、んだとゴルァ、喧嘩うっとんのか!?と脅してくる素行不良の生徒…友人に、俺は少年を抱えていないほうの手をふる。
「ちょ、おろし、なんなんだよあんた!?」
少年は焦っているようだ、が、俺の知ったことではない。
「少年よ、後ろの金髪にーちゃんに捕まりたくなければ、大人しく抱えられてちょーだい。つか軽いなー、飯もっと食えー」
とにかくぎゃーぎゃー騒ぐ少年は無視。俺は走る。
少年一人を抱えても、友人に捕まる予定はない。
適当に走って空き教室に入ると、しばらくそこで隠れる。
そこで漸く少年を下ろしてやると、少年はすぐに此処から走り去ろうとした。
「少年よ、ヅラがずれて綺麗な髪がでているよ」
教えてやると、少年は慌てる。
これは天然だろうか。
「少年じゃねー!篠原啓祐(しのはらけいすけ)だ!!」
ふーんと頷くと、面白そうだなとは思うものの仲良くなろうと今は思わない少年に自己紹介してやろうとも思わない。
たとえ、俺の姿が、少年と同じように黒髪もっさり眼鏡でも、だ。
少年はここにきて漸くそれに気がついたらしい。
口をパクパクと動かし、俺を指差す。
気持ちは解らないでもない。
黒髪もっさりで眼鏡をかけた、いかにもすぎる格好。俺と少年はそっくりだ。
まぁ、骨格だとか、身長だとか、それにじつはかけた眼鏡も瓶底と一浪してそうな眼鏡では違うものがあるが。
あと、俺は少年と違って一年この格好を突き通している。おそらく変装も馴染んでいる。
そう、これは変装だ。
少年はおそらく、『王道』といわれるような理由で変装をしている。
一方俺はというと、転校生の『王道』を面白半分になぞった結果こうなっている。
別に今は変装をしている必要性がまったくないのだが、面白いのでそのままにしている。
「まぁ、少年。とりあえず隠れとけ。水城はしつこいからな」
そういうと少年はとりあえず頷いて隠れる。
素直な性格らしい。
感心しているとポケットで携帯が存在を主張した。
震えはすぐになくなった。
携帯を取り出してサブ画面を覗く。
メール着信あり。
なるほど、メールらしい。
パカッと携帯を開き、メールを開く。
from 灰谷
subject 捕獲成功?
――――――――――
捕獲成功なら
身柄引き渡し求む。
ーーーーENDーーーー
解りやすく、簡潔なメールである。
理由を問いたかった俺が指を動かす前に、携帯が震える。
今度は電話がきたようだ。
迷うことなく電源を押す。
「はい」
小声でそういっても、携帯は俺の声を綺麗に拾ってくれるだろう。
『成功?』
言葉が足りてないのは、通話相手のデフォルトだ。
それはメールをくれた灰谷皐(はいたにさつき)本人であり、先程まで隣にいた赤毛の男だった。
「してる。何?水城と灰谷ってことは、少年は」
「少年じゃねーってば」
横合いからぽしょぽしょと文句を言ってくる少年は、構われたがりなのではないだろうか。ため息をつきながらも、訂正する気はない。
「少年は、お前らんとこの関係?」
『総長』
「あー探してたもんな。解った」
俺はそういうと、返事も聞かず、通話を切る。
あいつはそれ以上の答えを求めない。携帯がもう一度なることは考えられない。
「少年よ」
「少年じゃねぇって」
「とりあえず、一緒についてきてくれるか?」
「え、いや」
「水城からは逃れられるぞ」
「ついていきます」
少年、初めて会った人には、もうちょっと警戒しようぜ。
お兄さんはちょっと心配になりました。