そして、少年…もう、何回も訂正されたから、言い方をかえると、篠原少年…ホントいうと名前で呼んでくれって言われたけど、お断りする…は、灰谷さんちの皐くんに突き出されると、俺に振り返った。
「嘘つき!」
「お兄さん、嘘はついてないぞーう。水城からは逃れられるっていったもん。その人のお名前知ってる?」
「……ッ!」
まだ何か言いたいだろうが、俺は嘘をついていない。
篠原少年をつきだした相手は、灰谷皐。赤毛で言葉の足りないクラスメイト兼友人兼ラ・マン。ここ、大事。ラ・マン。 水城は友人で、灰谷はラ・マン…いわゆる愛人だが。なわけだから、優先順位ってあるよな。
まぁ、もちろん、俺の興味>愛人≧友人なわけだが。今回は俺の興味がちょっと薄かったというか、方向性があっさり変わってしまったってだけでね。
「灰谷皐」
「さっちゃんから名乗っちゃうの?」
「ん」
小さく頷く灰谷皐は、いつも可愛らしい人だな、と思う。
呑気におしゃべりしている灰谷から逃げようとする篠原少年だったが、灰谷はしっかり少年の腕をつかんで離さない。
それはそうだろう。
つい一ヶ月だか二ヶ月だか前に、逃げてしまった族のリーダーを探して探して探しまくった挙句、漸くこんなところで見つけたのだから。
もう、必死な姿のさっちゃんをみてた俺は愛人らしくチョー嫉妬しました。嘘です、面白がってました。俺らしく。
「総長」
「っち、ちが、ひとちが…」
「総長」
わんこってこういうのをいうのか。けど、相手によっちゃ態度変わるっていうより、さっちゃんはあれだよね。あいてによっちゃ完無視ってだけだよね。
まぁ、チワワというか…赤毛のグレート・デーンってかわいいかと言われたら、大きいから怖いが先にたつかもしれないけど。いや、可愛いんだけどね。
灰谷さんちのさっちゃんは、可愛らしい名前のわりに鋭い目つき。髪もきれいに染め上げた赤毛だし、まぁ、ピアスホールも結構あいてるしね。
でも、この男子校ではとてもおモテになるかっこいいお兄さんなわけですよ。てか、顔は整ってる類だから、かっこいいとかそういうのではなくて綺麗が正しいかな?
そんなおモテになるお兄さんの愛人が、黒髪もっさり眼鏡な、俺、那須晃二(なすこうじ)とはこれいかに。まぁ、変装だが。
それで、とにかく、どうする?な状態の少年・篠原は、俺と同じ結論に達したんだろうな。
篠原少年より身長が高くても、ちゃんと男の顔をしていても。
やっぱり可愛い人、灰谷皐。
「……そうだよ、悪いかよ、総長だよッ」
やけっぱちだね、篠原少年。
そのやけっぱち総長を抱き締めて、灰谷はこういう。
「…探した」
愛人の前で白昼堂々だね。まぁ、気にしないが。
「ってか、あの人みてるからホラッ」
抱き締められてるのから離れようと俺を引き合いに出す。
俺に振り返る灰谷はいつも通りだ。
「見ない」
「りょーかい」
「え、ちょ、違うだろ!それ、違うだろ!」
違いませんよ、総長少年。
さて、なんかお邪魔っぽいし帰ろうかな…とか考えていたら、灰谷さんが、俺の服の袖をつかんだ。
「…帰る?」
「えー…どうしよう」
「ていうか、助けろし!」
少年の言ってることはこの際無視。助けません。
灰谷さん的には帰ってはいけないらしいが、俺は何せ自己中心的な性格なため、丁寧に俺の服から灰谷の手を離すと、頷いた。
「帰る。じゃあ、またあとで」
何せ、灰谷は俺の同室者だし、いやでも顔を合わせるだろ。
背を向けて軽く手を振る。
それ以上、総長少年以外は俺を引き止めない。
まぁ、いつも通りだ。






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