面白い決闘


転入生がきた翌日。
そう、生徒会の奴らとUNOをしたその翌日…の、昼休みだった。
いつも通り売店にパンを買いに行って、去年お隣の席で今年は同じクラスの至って普通の人に見える東海林宏(しょうじひろし)と教室で駄弁りながら昼飯タイム。
やってきたのは風紀委員から逃げてきたけれど逃げ切れず、なにやらソフモヒオサレ少年…まぁ、有名人だな。つうか知り合いだっつの。尚ちゃんだな…等を引き連れた少年と、俺に決闘を申し込むためにやってきた生徒と、決闘を承認するためにやってきていた生徒会長だった。
校章の刺繍された白い手袋が俺に向かって投げられる。
俺は焼き蕎麦パンを頬張りながら、手袋をパンを持ってないほうの手で受け取る。
「今度こそ陸上部に入ってください!」
それ、決闘じゃなくてお願いよ?と思うものの、生徒会長は会長の親衛隊副隊長であり陸上部である生徒の決闘を承認した。
「承認する」
「え、マジで!?」
叫んだのは少年。熱いな、少年よ。
よくずっとその大音量でしゃべってられるもんだ。
俺のランチタイムを俺の名前を聞きに来て邪魔した挙句、教室に風紀委員をぞろぞろつれてきて驚愕させ…と、いっても、さっちゃんと遼は俺と同じクラスだけど。十夜と恭治は学年違うもんなー。一年の風紀一緒に走ってきたってことは、まぁ、少年も一学年下だね。ここまで良く来たもんだ。
「お前が陸上部に入ったら確実にうちの陸上部の成績が上がる」
「部活は本人の自由にしといてくれよー」
思わずため息つくのは仕方ない。
さっちゃんが何か、遠いんだか近いんだかな場所から不満そうだ。
「俺もする」
何を、とは今更問わないよ。決闘だよな?
俺は再三、軽音楽部に『入部』『入部』とせっつかれている。今の俺には部活は無理だと断っているが、皆黙ってはくれない。
「毎朝追いかけっこしてんじゃん。それじゃ駄目なの?」
「は!?追いかけっこ!?」
少年は相変わらず叫ぶ。
まぁ、昨日転入してきたばかりじゃわからないよなぁ、今の俺の状況。
ま、面倒だし説明しない。
「そう…、篠原さん。那須は、『決闘嵐』といわれていて、決闘を仕掛けられ、負けたことは一度もないんです。しかも、学年首位を守りきり、運動神経も抜群。皐の愛人だとばれてから決闘を申し込まれる回数が増え、それでも勝ち続けた挙句、認められてからも身なりを整えろと追い掛け回され、あれは変装だと全学園内放送。朝、教室に辿り着くまでにあのヅラと眼鏡をとれたものの言うことを聞く。ということになったんです。…ですが、その放送から半年たつ今でも、誰も那須を捕まえられるものが居ないんです」
丁寧に少年の疑問に答えたのは遼。よくそんな長い説明をいってやれたら、少年が黙って混乱しているぞ。
そんなわけで、『決闘嵐』とか恥ずかしい名前で呼ばれている俺は、毎朝待ち伏せされたり罠を仕掛けられたり追い掛け回されたりしながらも、半年間このままです。
「お、おもしれぇえ」
おいおい、少年なんだそれ?
と思いながらも、決闘を承認されたからには俺も受けなければならない。
「謹んで、お受けします」
「護衛…は、いつも通り付けなくて平気だな」
言い切る生徒会長。
そう、最初のほうはついてた。ついてたけど、『決闘嵐』と呼ばれるようになった頃から、卑劣な罠をはっても無駄だと認識してくれる連中が多くなった。どんな罠があっても俺は負けないし、罠を仕掛けた連中が俺より悲惨な目にあってしまうからだ。
いやぁ、目には目を、歯には歯をっていうだろ。
俺は使えるものはなんでも使うよ。
少年と風紀委員が揃っている以外は月一の光景だ。俺の前で飯を食っている東海林も慣れたもので、決闘を申し込まれたことより、決闘の内容が気になるらしい。
俺への決闘は最早、この学園生徒の立派な娯楽である。
「では、決闘方法を開示しろ」
親衛隊副隊長…南、というらしい。南君はこういった。
「い、一分間スピーチでお願いします!」
「ルールは、一分間、何も見ないでスピーチをし、一分オーバーすれば失格、一分内でより一分に近いものが勝つ、だ」
最近、時間制限もの多いなー。あれ結構心理戦なんだよな。焦っちゃいけない。だからといってゆっくりしてもいけない。
決闘には結構ルールがある。
俺が月一で決闘を受けているのも、決闘受理回数が月々決まっていることと、俺には月に一回というルールがしかれているためだ。
こうやって会長が承認するのも、ルールを説明するのも決闘のきまり。承認やルール説明は生徒会の人間なら誰でもいいんだが、今日は会長がお手すきだったようだ。
他にも色々あるのだが、面倒くさいので端折る。
「オッケー」
俺が軽く頷くと、会長も頷いた。
「では、決闘の日取りと場所を」
「明後日、放課後、四時半、第一講堂でお願いします!」
南くん、そこ、結構広いよ、大丈夫?生徒いっぱい入るよ? 緊張しない?と思いもするが、相手は得意なことで挑戦してきているはずだ。情けは無用である。
「りょーかい」
「では、明後日放課後四時半、第一講堂で一分間スピーチをする。以上」
会長の締めの言葉をきくと今までざわざわしていた教室がさらにざわつく。
この学園は成績順で教室を決めているため、大体は持ち上がり。
去年も一緒だったクラスメイトは決闘ごとに慣れている。おそらく、連勝ストップの話だとか、皐の『俺もする』発言だとか、また、俺がわけのわからんやつを引っ掛けたとか、そういう話にわいているんだろう。
あえて俺は周りの話を聞かない。聞いていない。
だから、近くに居るにもかかわらず、今まで少年が十夜に口を塞がれていたことにも気がつかなかった。
少年がぎゃーぎゃーいってようがいなかろうが気にしないからね、俺。
「ところで、コウ。それが、昨夜、橋上が言っていたやつか?」
「そうそう、この少年こそが例の」
「…結構煩い。俺には無理だな」
生徒会長は橋上をどうにかできなくても、橋上に従うことはあまりない。俺と兄の悪巧みにはたまに乗ってくるが、今回は乗る気もないらしい。
そう思えば最近、『浮気者め』と罵られたらしい。
別に誰とも付き合っても居ないし、セフレが居るわけでもないのに。可愛そうにな会長様。
「…とりあえず、食堂いくか…。おい、風紀、あんまりたかってんじゃねぇよ。ひとさまの迷惑考えろや。特にこのクラスじゃない二人。あと、そこの少年も、名前を聞きたいなら騒ぐんじゃなくてもっと普通のトーンで、飯食い終わってから聞かないとこいつ答えないぞ」
なんとなく助言してますよ、会長。
少年は聞いたんでしょうかね。たぶん助言したであろう風紀連中の一部が苦笑した。まぁ、風紀の言葉とか聴いてなかったんだろうなー。結構聞き漏らしがある少年だ。
「は?なん?え?」
あ、生徒会長のはどうやら聞いていたらしい。
俺は焼き蕎麦パンを再びかじる。
ちょっと紅生姜ケチりすぎだろ、売店のパン。
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