「あれ?少年じゃん。何から逃げてんの?」
そう、俺は、今、追いかけられている。
「……なんか知らない人」
「あ、告白でもされたー?少年、外見かわいいもんねぇ」
「なんかすげー失礼なこと言われた気がする」
知らない人…晃二の言うとおり、告白してきた人から逃げている。
告白してきたのは三年の先輩だ。
卒業式前…本当に直前に、先輩は告白をしてきた。
珍しく、朝早くからやってきた俺の下駄箱にお決まりのラブレター。お決まりの裏庭で、告白。
俺はもちろん慌てた。無理だ!という前に、尚と渋谷を思い出した。
先輩は、顔を赤くして、なんか今にも逃げたそうというか泣きそうというか。そうだよな、俺の知り合いは男同士で付き合ってる奴らが多数いるけれど、本当は男同士って少ない。それに、普通なら、断られる。女の子に告白したって、両想いって難しいのに、男同士なら余計。気持ち悪いって思うやつもいるし、俺みたいに無理って思う奴もいる。
それなのに、告白してくるってのは、すごいことなんだ。
俺の反応だって、きっと先輩は怖いはずなんだ。
俺は言葉を飲み込んで、なんとかこういった。
「ごめん、なさい」
断り文句としては普通だったと思う。
それなのに、なんで、追いかけっこなんてことになったんだ…。
確か、先輩が、じゃあ、最後に抱き締めさせてくれっていうから。それくらいなら、とおもったわけだ。
で、抱きつかれて、そのあと、じゃあ、キスもみたいな流れになったんだ。
いや、キスはしねーよ。
というわけで、俺は逃げた。そんで、晃二に会った、と。
「やだ、久しぶりに少年が追われてるの見たし」
何かプリントの束を持った晃二は、ニヤニヤしながら、こういった。
「少年よ。とりあえず、一緒についてきてくれるか?」
…なんか懐かしい言葉聞いた。
「ついでにプリント半分もってくれると助かる」
「って、使いたいだけかよ!」
思わずツッコミをいれてしまうのは、もう、俺のくせだと思う。
「ついでにお兄さんが助けてあげちゃうから」
「ついでがそれかよ!」
いや、助けてくれるんだから、文句を言ってはいけない。
俺はプリントを半分もち、晃二についていく。
途中で、当然のように告白してきた先輩に会ったのだが、晃二が『先輩、無理強いはダメですよ』と笑うと、青ざめた顔をして去って行った。晃二すげぇ。
プリントは今日、卒業式の会場になっているいつもの講堂の入り口にある机の上に置いた。
「すげー」
講堂内は緑の滑り止めシートと、何かの機材、パイプ椅子でいつもと違う感じになっていた。
「うん、すごいよねぇ、この眺め。なんか、無心で眺めちゃうよねぇ」
「そうかー?」
すげぇとは思うものの、なにかずっと眺めるようなものでもない。
俺はこういう感じはあまり経験がないから、珍しくて見ている感じもある。
「まぁ、完璧に無心というより、途中から考え事して、風景が遠くなるけどね」
「考え事?」
「そー。たとえばステージの来賓席で転寝しているのは、もしかして、さっちゃんかなとか」
そういわれて、ステージを見ると、他のパイプ椅子とは違った色の椅子が横並びになっているそこで、皐が横になっていた。
…そこ、なんか、座るなって書いてある気がするんだけど…。
「皐かな、じゃなくて皐だろ、あれ」
赤い頭をこちらに向けて、寝ているのかどうかはわからないが、ピクリとも動かない。
「だよねぇ。ははは、お疲れだ、会長様は」
そういいながら、ステージへと障害物を避けながら、障害物に接触しないようにしながら走って、勢いつけて階段も使わずステージに上ると、皐に近づいた。
「さっちゃん、さっちゃん」
「……」
応えはない。
晃二は今度は赤い髪を掴んで引き起こし…って、普通、肩とか叩いたり、動かしたりするよな、普通。いや、あの二人には普通は通じないと夏にわかったはずだ。はずなんだけど…。
「……」
晃二が何か耳元でいった。
こちらからみたら、晃二が何か言っているのはわかるけど、晃二の背中が見えるだけで何をしているかはよくわからない。
けれど、耳元で何かいったのはなんとなくわかった。
「……!?」
晃二を振り払い、ガバっと起き上がった皐の顔は遠目から見ても、真っ赤だった。
え、何がおこった。
晃二がそこからはなれずに、俺に、聞いた。
「ねぇ、少年。普通って、なんだろうねぇ」
「よくわからん」
正直に答えたら、晃二は振り返って俺を見た後、笑い始めた。
それはもう、豪快に笑いやがった。
「そっか、よくわからないか!」
いや、マジわからんよ。
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