「髪…」
朝は一緒じゃないというか、朝一緒だと大変だから、さっちゃんは後から別ルートで教室にやってくる。
朝の追いかけっこのルートと時間は決めてある。…参加していない生徒に迷惑がかかるからだ。
さっちゃんは俺の髪をみて、ヅラを被っていないことにショックを受けているようだ。
「ん。ヅラだけとられた」
「眼鏡」
「ヅラをとられてしばらくの間、皆で呆然としちゃったんで、ヅラだけってことにして、眼鏡は明日から争奪ってことにしたんだけど」
「とられたら、良かった」
両方とられたら、さっちゃんは用事が無い限り俺と一緒に登校できるっていうんでしょ。解ってますとも。愛されてますとも。
「まぁ、眼鏡とられちゃったら、俺のおとこまえっぷりさらしちゃうから駄目駄目…あ、さっちゃんワックス持ってる?」
「それ、駄目。…ワックス、ない」
ワックスはお持ちで無いらしい。誰かもってないかなー髪がヅラのお陰でねてるんだよなぁ。
男前発言を軽く肯定しているさっちゃん。もうちょっとつっこんでくれると良かったんだけどねぇ。俺、コレじゃただのナルシストじゃん。
「誰か持ってる人ー?」
陽気にクラスにいる連中に聞いてみる。
鬼ごっこはわりと朝早くにやっているが、さっちゃんがきているくらいの時間だ。クラスの連中は結構集まっている。
ヅラをとった俺が見慣れないのか、それとも俺だと思ってないのか、クラス連中の目は胡乱気で不信気。
仕方ない、ヅラ被ってやるか。
適当に今日外れた黒ヅラを被ると、クラスがざわついた。
ついに那須のヅラが…!といった内容だな。
「で、ワックスは?」
誰かが持ってたらしい。
ひゅん…と携帯用の小さいサイズのワックスが飛んできた。
俺はうまいことキャッチすると蓋を開け、ワックスを手に取り、馴染ませる。
「さんきゅ。……ところでさっちゃん、ジワジワと警戒態勢止めて頂戴。皆がちょっと遠のいていってるからね。大丈夫、『あ、髪紫だ。つかピアスやりすぎだろおめぇ』ぐらいの認識になるからね」
まぁ、ここで、眼鏡をオシャレ眼鏡にかえたら、派手すぎだろ落ち着けよ。に変わるんだろうな。ま、俺、派手なのすきだが。明日からはオシャレ眼鏡にすっかなぁ。明日は水色と黒の斑フレームにしよう。そうしよう。
そうして俺は、ワックスを付けてねてしまった髪をどうにかした後、ワックスを持ち主に返し、手がワックスでベタベタだから洗いに行ってくるとさっちゃんに声だけかけて、さっちゃんを置いて便所にいった。
帰ってきたら、そこには噂を聞きつけた新聞部が。…噂、千里を走るっていうけど、速すぎるでしょ…。
「実はかっこいいってやつ?少女漫画みたいな!」
新聞部部長が嬉しそうにインタビューをしてくれましたが、さっちゃんが漏れなく牽制。
さっちゃん俺のことかっこいいと思ってるのかしらん。まぁ、普通よりはちょっとばかしかっこいいかもしれないけれど、この学園にいると、クラスでちょっとかっこいい人。くらいだと思うんだが。
ま、それより先に、はで!っていう印象が残ってしまうのがデフォルト。
「や、実はとかいうことじゃないでしょ。漏れでるカッコよさが俺の魅力って奴でしょ。何?気づいてなかったの?」
まぁ、口だけならそういうけどね。リップサービスですよ。意味違うだろうが。
「あはは、那須はやっぱ那須だねぇ」
「何それ、失礼しちゃう!」
さっちゃんを宥めるために、さっちゃんの頭を撫でつつ答える。…不機嫌そうだけど大人しくしてくれるところは扱いやすい。
「ま、おいといてー。写真撮らせてね。あと、眼鏡争奪戦のルールとかも教えといてね」
学園全体が俺に協力的な気がするのは、やっぱ、ここの生徒もお祭り好きな体質なせいだろな。
なんとも複雑な気分だけどな。
でも、感謝してますよー。