喧騒は突然に


明後日、放課後、四時半、第一講堂。
…といえば、思い出すのは一つ。
俺が転校してきたばかりの日に、承認とやらがされた『決闘』だ。
つまり、今日の放課後、それはあるらしい。
朝からその話題でいっぱいだ。
今回は那須晃二がきっかり時間をつかって勝つに賭けた。とか、いやいや、今度こそあの男の負けに賭けた。とかそういう感じだ。
なぁ…。この学校、自由すぎないか?
たまたまゲットした朝の飯で一番高い定食を食いながら、周りの話を聞いていた。
同じ机にいたのは、眠そうながら今日はやけにご機嫌な皐、今日の決闘の盛り上がり具合にまずまず満足している龍哉、その隣で黙々と姿勢よく飯を食う知らない男、そして俺に飯をおごってくれた晃二…。
正直にいう。
目立って仕方ない。
晃二は紫の髪を惜しげもなくヘアピンでオシャレにしてあり、いつもの眼鏡は何処にいったと聞きたい水色に黒ぶちの眼鏡に…あれ、なんていうんだ。よく、おばあさんとかがしてるやつ…とにかく紐?みたいなのをぶらぶらと下げている。…あとからきいたら、グラスコートとかいうものらしい。いつもの曇りがちなのか光がちなのか良く解らないけれど、目の見えない眼鏡とは違って、よく目が見えるその眼鏡のレンズは薄い。目つきはあまりよくないみてぇだ。とにかく、ものすごい派手だ。それで学校にいってもいいのか?と聞きたいところだが、風紀がアレでは、今更か。
と、三日目にして俺も慣れてきた…ような気がする。
その隣…俺の隣でもある…に座って、眠たそうだがご機嫌な皐は、なんでかは良く解らないけれど人気者で、赤い髪は何処にいっても人より高い視線を確保する。そう、背が高い。強面であるけれど、かっこいい。そのくせ可愛いとはいったいどんな卑怯なやつかと思う。その足の長さを俺に分けてくれたっていいと思う。
その前に座るのは龍哉。例の、俺のファースト…いや、あれは事故だ。なかったものなんだ。アレはないんだ。消した。とにかく、俺がこの学校にきて始めて出会ったやつ。すげー悪そうな顔というか…悪い金貸しみたいな顔をしている。とにかくそんなやつが席が開いているから…というよりは、晃二が座っていたから。という感じで座ってきた。副会長とかやってるのを置いておいても、悪目立ちをする奴だ。コイツも背が高い。だから俺にその足の長さ、分けてくれてもいいんじゃねぇの!
その隣に座ってる奴は、たぶん龍哉のツレ。これもまた、美形だ。なんだ、雅孝さんは、本気で美形ばかり…いくら面食いだからといって、こういうのはちょっとどうなんだ…。寡黙で礼儀正しく、席いいかって聞いてくれたときも見惚れたくらいだ。俺にはないもんがある。羨ましい。というか、こいつもまた、足が長い。なんなんだ。お前ら日本人だろ。胴長くなっとけよ。
…というメンツで飯を食っているわけだ。
そりゃあ、目立つ。目立って仕方ない。
だが、俺はもう、半分くらい諦めている。
…足のことじゃねぇぞ、目立ってることだぞ?
なんでって、俺自身が目立っているからだ。
なんどもいうけど、風紀がおかしいこの学校。
真面目とかいう前に、明らかに何かおかしいというか、漫画みたいなオタルックの俺が浮かないわけが無い。
むしろ普段の俺の方がいいんじゃないか。と思ってしまうのも仕方ない。
それを俺は三日目に発見した。
つまり、今朝は本来の姿をしているわけで…。
オタルックであったときよりは目立っていないが、これはこれで目立ってしまっている。
「少年は美少年だな」
「ん」
晃二の言葉に俺じゃなくて、皐が自慢げに頷いた。
なんっつーか、家の自慢の子なんです!みたいなかんじだった。 …ああ、コレが恭治のいってた『自慢』か…なんて、感心している間に話はすすむ。
「三日目にしてリタイヤか。つまらんな」
そういったのは、龍哉。なんだ、そのリタイヤって。俺は目立ちたくなかったんだよ!その上決闘とかいうわけのわからんものに巻き込まれたくもなかったんだよ!
「いや、ま、たっちん。少年は正しい判断をしたと思うよ」
だよな。話がわかるな、晃二!
ちなみに俺は、この間、飯をかきこま無ければならなかったため、話をしていない。だってよぉー、飯、すげーうまいんだもん。 でも、話は聞いてるんだぜ!あとで加わりてぇからな!
「それで、天の総長だって、Dクラス以外の不良さんに知られるっていう馬鹿に気が向いてないようだけども」
なんか、前にも言った様な気がするんだけど。
俺ってば、一つのことに集中すると周りはみえねぇんだよな。
誰だったかがいってたんだけど、『ちょとつもーしん』とかいうらしいけど。
そんで、俺は今更、気づいちゃうわけだ。
暴れたおして、夜の街で名を馳せたとか顔が知れてるとか。とにかくそんな俺。
でも、この辺の街じゃない。…でも、それでも、一部には有名らしい俺。
その筋では、結構顔が知られているとか…なんかかっこいい感じに聞こえる俺。
そう、俺は学園に多いのか少ないのか良く解らないけれど、目撃されたら不良に目を付けられるくらいには有名人なのである。
飯はウマイ。
うまいけれど、そのことに気づくと飯の味がわからなくなった。
あー…やっぱり絡まれたりすんのかなぁ…。
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