お昼は何の騒ぎも無く心行くまで飯を楽しんだ代わりに、放課後は所謂、お楽しみってやつで、異常な熱がこもっている第一講堂にうんざりだった。 あちい…だるい…。 これでも俺は、他の連中よりマシだと思う。 風紀の連中の傍にいるからだ。 恭治が俺を、十夜、遼、皐のいる場所に引っ張ってきたんだが、ほかの奴らがちょっと遠巻きにしている特別席っぽいところに座っているのを見た瞬間に、俺はすげー今までしたことないくらい遠慮というやつをしてみた。 恭治だけだったら全然…いや、十夜と遼がその場にいたところでなんてことはなかったんだ。人ごみの中に俺は飛び込むことができた。 でも、俺が会場に辿り着いたと気がついたのは皐だった。 よりにもよって皐だった。 振り向いて、嬉しそうに笑った瞬間。 俺は生きた心地がしなかった。 灰谷さまぁああああ!だとか、きゃー!だとか、ぎゃー!だとか、うおおおおおだとか。会場が揺れたよ。誰に笑いかけたとかそういうのを見る前に、皐にしか目がいかないくらい皐しか見ていない奴らが、もう、特別席より怖かった。ほんとうにほんとうに、怖かった。 特別席に行くと、俺をみた連中は『噂のすごい転校生!?』『変装だったんだ、やっぱー』『あれ、がせじゃなかったんだ!』『天の総長ってやつ?』『やっばいびじーん!』とか話はじめた。 もう、駄目だ。俺は空気になりたい。俺、いず、えあー。 噂がどんなもんかなんて俺は知らない。 すごいってのは何も…この学校では何もしてないから、きっと、たぶん、ていうか絶対晃二のせいだ。 なんかもう、晃二は伝説の域ですごいらしい。 とにかく、特別席には、天でよく見知った顔と、やたら煌びやかなかんじの美形集団が…って、俺場違いじゃねぇ? その場にいるのがどんどん嫌になってきた俺は、ため息をつきながらステージを見る。 この前、寮でぶつかったキラキラしててかわいい奴が、ステージでマイクを持っていた。 『あーあー…本日はお日柄もよくー…あーあー』 マイクテストするんだったらもっと言葉があっただろうに。 キラキラしてて可愛い奴は、スピーカーから声が出ていると解ると、にかっと笑って小指を立ててコードのついたマイクを持った。 『…奇条学園の皆さん!元気ですかああああああ!!』 ここで客席がいい返事を返した。 うおおおおだとか、きゃーだとか…会場が震える、あの声というか雄叫びだ。 『元気があればーなんでもできる!そんなわけで、本日のお楽しみ、無所属・那須VS会長親衛隊副隊長、陸上部の南くん、一分間スピーチ始まりますッ!』 なんというか、こころえている。って感じだな。客席はまた、雄叫びで揺れた。 なんだ、これ、すげー息あってるって感じ。 『ステージ右より来ますのは、ご存知僕らの那須晃二!一昨日ヅラをとられてすっきりするかと思いきや、落ち着かなくなりました!』 ああ、目に痛いほど紫だもんな。しかも、眼鏡派手だよ。ヘアピンも派手だよ。とにかくはでだっつの、落ち着けよ。ってか、誰か注意してやれよ。 そんな晃二がステージの右側から出てきて、ステージにあった椅子の前まで来ると、ぺこりと頭を下げてから椅子に座った。 『ステージ左より来ますのは、長距離走のアイドル!親衛隊副隊長、南晴義(みなみはるよし)!夢は駅伝にでること!絶妙なペース配分で那須を追い込むのか!?』 司会がなにげにうまいとおもうのは、俺だけだろうか…。 特別席の連中は見慣れた様子で前を見ているだけだ。 あ、キラキラ軍団のやつら、何気に皆みたことあるし…。 と思っている間に、南は晃二より少し離れた場所にある椅子に座った。 『さて、ルールを一応説明します!一分間、何も見ないでスピーチをし、一分オーバーすれば失格、一分内でより一分に近いものが勝利!簡単なようですが、非常に恐ろしい心理戦!昼どらよりどろどろかもしれません!!』 お坊ちゃまでも昼ドラとかみるんだな…って、思ってしまうのは俺だけ?いや、その前に、この学校の生徒はお昼になにをしているんだというか。 完璧アウトだろ、それ。 『今回は、スピーチ内容は自由であるため、どんなものがくるかスッゴク楽しみです!では、先攻は希望により、南くんです。どうぞ!』 |