お祭り騒ぎは突然に


皐月祭とかいうのが近いうちにあるらしい。
結局、幹部連中につかまって、あれよあれよと『天』の総長に戻ってきた俺が話す学園の話に『天』のメンバーは興味深深だ。
学園に幹部連中がいたんだぜ、ふざけんなオボッチャンだろ?といったところ、『え?総長しらなかったんだ…』って顔をされた。
なんでも、天は天になる前、皐と十夜とその幼馴染が、俺の地元であり、その三人の地元でもある場所で一時的に大暴れしたことから始まったらしい。
天になる前に総長っぽいことをしていたのが、皐と十夜の幼馴染で、周りから見ると不良のようなものだが、本人とそのまわりの認識としては、ぶちぎれて喧嘩をしていたら人が集まっていただけ。ということらしい。
その幼馴染は奇条学園に今もいて、天になる前に喧嘩をやめてしまったらしい。
そこにちょうど俺がやってきて、それを連れてきた十夜が俺を総長にしたらしい。
俺としては、あとから連れてこられただけあって、どうすればいいのか解らず、総長というものを自分なりに頑張っていたし、喧嘩はするけど、気のいい連中ばかりがそろう『天』が大好きだった。
一つのことに集中するとどうにも周りが見えない俺は、総長として頑張ることに夢中で、誰が何処の何ということを気にしきれていなかったのだ。
本当、総長とはいえない総長だなと思う。
でも、『天』の皆はそれが、『天』という形であるという。
『ちょとつもーしん』な総長が先行で走っていって、ソレを外堀から固めるように、不安がないように、まっすぐ走っていけるように、幹部連中が動く。それが、『天』だと。
同じように突っ込んでいくべき特攻隊長の皐は、総長の行く道を開くためにいて、俺がまっすぐ走るべき道の小石を排除するのが恭治で、後ろを安心してまかせることができるように配置されたのが、副総長の十夜。より安定と守りを強固にするために、遼がいる。
この形にしたのは、俺がいたからではない。
天になる前の十夜と皐の幼馴染がいたからこそ、抜けた穴を補い、形にするために俺が必要だったらしいのだ。
そして、恭治と遼すらも、『天』にするために必要として身近からつれてきた結果らしい。
俺が、学園に行ってここに戻ってきたときに設立初期からいたメンバーにきいた話なので、まぁ、そうなんだろうなと思う。
『天』をつくって、十夜と皐がどうしたかったかは俺にはわからないけれど、一度さって、もう一度もどってきた俺をまた、この場所に立たせてくれるメンバーが俺はやっぱり大好きで、だから、俺は『天』をつくってくれてありがとうといいたい。
とにかく、そんなわけで、奇条学園のオボッチャンたちがそろいもそろってチームの幹部になってしまっているのは仕方の無いことらしい。
なるほど、それは仕方ない。
だが、幹部連中はどうやら学園のことはあまり話さないらしい。
ま、皐は無口だし、十夜は自分のことより他人のことを優先している節がある。遼は自分のことを話すタイプではないし、恭治は学園のこと云々よりほかの事を話していたいだろうし。
そうなると、学園のことは当然のように秘密みたいになってくるらしい。
俺が聞かれたら嬉しそうに話すということを知っているメンバーは、俺が奇条学園に転校したと知って、ここぞと今まで気になっていた学園のことを聞いてくる。
で、だ。
皐月祭というお祭りがあるらしい。という話をしていたのだ。
「そーそー。すけちゃんそーちょーは初めてだよね〜」
頷きながら、説明したのは恭治。
話をふれば、参加してくるのはいつものことだ。
「おう。文化祭のちっちゃいやつって聞いたんだけど」
「ん。文化祭のちっちゃいやつだよ。でね〜さっちゃんが、歌うらしいよー」
「あの無口が歌えんの?」
「あれ?すけちゃんそーちょー知らないの?」
…もう長いって突っ込むのも飽きてきた。
なんでも、恭治のわけのわからん長ったらしい説明によるとこうだ。
皐は、学園のアイドルというかスターだ。
歌って踊ることは無いけれど、歌って叫んでオールスタンディングなんだそうな。
意味が解らなかったが、とにかく、歌うんだなということが解った。
「あいつ、鼻歌すら歌わないのにか」
「んー…でも、歌うの好きなんだと思うよ。ずっと、軽音学部にいるし、昔は軽音学部にいるためだけに勉強もしてたし」
「へぇ…でも、皐、頭いいクラスだぞ?クラブだけならそんなに勉強しなくてもよくないか?」
「まぁ、それは…うん、愛?」
いつものことながら、わからない、恭治。
もっとさー、前に説明とかあってもいいと思う。
まぁ、クラスのことは置いといて。
歌うのか…他のやつらも何かしねぇのかなぁ。
なんとなく思っていると、それが顔に出ていたらしい。パソコンを眺めていたはずの遼が、答えてくれた。
「…俺と水城と恭治は風紀の仕事があるので、出し物はしませんよ?」
一瞬エスパーかと思ってしまったのは、秘密にしておく。
「えー、風紀の仕事なんてしてないように見えるのに…」
青に金に茶だぞ?その上、一緒につるんでる奴が紫に赤とかどんだけ風紀が緩いんだ。
「姿形の規則は緩いんですよ。それ以外は、他の学校とそう変わらないと思いますけどね。とにかく、見回りの仕事がありますから」
「そっか…じゃあ、俺は尚とかしょうちゃんとかとまわることにする」
「え〜俺も〜」
「恭治は駄目です。仕事してください」
恭治がいつもの調子で、手を上げて何度も俺と一緒に皐月祭をまわることを主張するが、遼がそれを許そうとしなかった。遼は、本当、髪色とか以外はすごく風紀委員とか学級委員とか間違えてないと思う。
真面目だから。
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