溜まり場で皐月祭の話をしてから数日。
皐月祭当日になった。
午前中は尚としゅうちゃんと回って、尚が何か演劇部の手伝いにいっている間に、街の広場のステージで何かしているらしいということで、ステージを見に行った。
そして俺は、何故か皐月祭公開決闘なるものをすることになっていた。
ステージ前で白い手袋を投げつけたのは、見てわかるほどの体育会系の先輩で、なんと、風紀委員長…十夜の親衛隊みたいなものだと言った。
承認したのは、ステージで司会をしていたきらきらな…織田喜一とかいうやつ。
なんと、このステージに俺を町内放送で呼び出しするつもりだったらしい。手間が省けたとかいっていた。
決闘内容は、皐月祭お昼前のメインイベントとして用意された舞台で行われる参加型のゲームだった。
『では、今から、皐月祭公開決闘!箱の中身は、なぁ〜あに!開催です!!』
簡単にいうと、度胸比べだという話なんだけど。
ちなみに、これに負けたときの罰則はトイレ掃除。
さらについでにいうと、晃二に負けた南の罰則は古典のレポートだったという話だ。なんだっけ。なんか、いろはがなんたらとかいうやつ。良く解らない。何度もいうけど、勉強は好きではない。
とりあえず、晃二のようにスピーチとかでなくて良かったと思ったが、『げ、やだよ、俺』と言って断ろうとした俺に、恭治が『やるよー』と勝手に答えてしまい、決闘をうけることになった俺は、半分いやいやだ。
でも、半分だけだ。
何故なら、皐月祭公開決闘の内容が、面白かったからだ。
『ルールは簡単!見えない箱に入っているものが何であるかを素早く当てたほうの勝ちです!』
よくバラエティとかである箱の中身を当てる、アレ。
一度はやってみたかった。
勝ち負けがなけりゃな。罰則がなけりゃな。
『先行は、決闘を申し込んだ三野(みの)先輩です!ではどうぞー』
本人には見えない箱だが、ステージをみている人間にはよく箱の中身が見える。
箱の中身をみた瞬間に、うわーだの、ひでーだの、きゃーだの、うおーだのという声が聞こえる。
じつをいうと、俺も箱の中身を前までいってみたのだが…。
クマのぬいぐるみだった。
しかも、動かすためにわざわざ人が箱を置いている台の下に入っている。そして、その下に入ってぬいぐるみをだるっそうに動かしているのは、十夜だった。
何してんの?って視線で訴えると、苦笑された。
不良らしくないというか…風紀の仕事はどうしたんだとききたい。
「え、柔らかい?うご、うごいた…!?」
先輩曰く、憧れの十夜が動かしているにもかかわらず、先輩はビビるビビる。
「生き物?生き物なのか…!?」
恐る恐るクマのぬいぐるみに触る、体育会系の高校生…。
その様子を近くで見ながら、なんだかかわいそうになってきた。
不意に、クマのぬいぐるみをもっていた十夜の手に触れる。
「暖かい!?生き物!?う、ウサギとか!?」
前回と同じ司会者の織田が、それを答えととったようだ。
『はーい、三野先輩ふせーいかーい!答えは、此方ですー前にまわってきてねー』
前に回ってきた先輩は本当に可哀想だった。
十夜が『よ』っと、台の下で軽く手を上げた瞬間に、時間が止まったように動きを止めたのだ。
暖かかったのは十夜の手だと気がつくのはいったいいつだろうな…。
そして、俺の番がくる。
先輩と同じような反応の観客はおいといて。俺は思い切って箱に手を入れる。
っていうか、これ、中心におかれてるもんじゃねぇの?なんか、全然無いんだけど?
箱の底に手がつくまで入れたのだが、中に入っているだろうものには触れてない。かるく箱の中をかき回してみたのだが、触れていない気がする。
何故だ。もしかして逃げられてんのか?
「何、これ、いきもん?」
なんだか、先輩と同じことを言ってしまう。
先輩はもちろん、俺とおなじように前から箱を見ているのだが、俺の思い切りのいい行動に驚いているようだ。口をパクパクしている。
「また、人間が下にいたりして」
と笑ったら、会場がとても静かになった。
え、図星?
「え、まさか、十夜?」
さっきいたし、またはいってんじゃねぇの?と思った俺がいけなかった。
『はーい、惜しいけど、篠原君もふせーいかーい!答えは、此方〜』
前にいってみると、なんと、こよりをもった恭治がいた。
…お前ら、本当は暇なんだろ?
決闘の結果は、両者不正解。
結果、罰則は両者仲良くトイレ掃除となった。…うん、まぁ、いいんじゃねぇかな。たぶん。