俺が何もしていなくても皐月祭はやってくる。
朝は寝坊をしたいさっちゃんに付き合って、ゴロゴロして、昼前に寮をでた。
皐月祭は一応学校行事であるため、制服でぶらぶらすることになる。
眼鏡は相変わらず鬼ごっこで取られていないが、今日はさっちゃんたっての希望で、眼鏡をしていない。
その代わり、十字架の描かれたカラコンと蝶が描かれたカラコンをしていた。
気分はお祭り気分だ。…というか、気分じゃなくても今日はお祭りだ。
愛人といっても、手をつなぐことも腕を組むことも無く、普段と変わりなく、隣でわりと一方的に駄弁りながら祭りを回る。
昼飯は昼飯時をずらして焼き蕎麦を買い食い。
さっちゃんは塩味、俺はソース味。
たまに違うパックから焼き蕎麦を奪い合い、食っていると、うちのおにーたまとトモちゃんがやってきました。
「はい、ポーズ」
携帯でパシャリと写真をとられたのは、焼き蕎麦を奪い合っている最中でした。
「そのカラコン、…ちょっとどうなんだ?」
携帯で写真をとった後、何も無かったかのようにお兄様はさっそく、カラコンについてつっこんできた。
無口でクールぶっているトモちゃんは、携帯をそれとなく操作している。メールをしているようだが、たぶん、兄様に『さっきの写真ちょーだい』とかいうメールをこの至近距離でしているに違いない。
「写メ」
兄上の話を無視して、いつになくさっちゃんが写メを要求した。
そうだね、さっちゃん、俺とツーショットで写真なんて撮らないもんね。
たとえ焼き蕎麦を奪い合ってるような写真でも。
「千円」
…兄はとてもがめていると思います。
だけど、さっちゃんは反論すらせずに、そっとおにーさまの手に千円を握らせました。
なんともブラックな世界を見た気分だ…。
「おにーたま、肖像権に一割」
でも、そんななか、ちゃっかり一割を要求してしまう俺がとても憎いです。
いや、この写真、たぶん売りに出されるから、一割くらい要求してもいいだろう?
「わかった」
そういって写真が送られてくる。
さっちゃんの写真だ。
「…さっちゃんの写真は貰わなくても撮れるし…むしろ、俺、レアもの写真とれる自信もあるから」
「じゃあ、コレでどうだ」
と兄が送ってきたのは着声。
携帯に耳を当てて聞いたそれは、この前のさっちゃんシャウト。
「ん。コレに、着歌フルで」
「…えらくたかい1割だな」
といいながらも、くれるお兄様。この前のトトも儲かったらしいしね、オマケみたいなもんかねぇ。
俺に1割をくれたついでなのか、さっちゃんにももう一つ何か送ったらしい。
さっちゃんが、画面を見た後、おにいたまをみて、目を輝かせた。なに送ったんだお兄様。
そっとさっちゃんの携帯を覗くとそこには、つい最近のヅラなし、眼鏡なし、裸眼で画面を睨みつけている姿が…。って、この前の兄上がなに持ってるか見えなくて、ついつい睨みつけてしまった時の奴じゃありませんか。
仮にも睨みつけてる写真って、いいものなんだろうか…いや、レアかもしれないけどさ。俺、カメラ向けられたらとりあえず笑うし。睨んでるってあんまりないし。
そして、さっちゃんの携帯を覗く俺を再び写真に収める兄上。
売るのはわかってるよ。もう、色々諦めてるし、1割とか賄賂もらってるからいいけどさ。