突然、さっちゃんの携帯に少年からメールがあったのは、たっちんたちがいなくなってすぐくらいだった。
突然のメールは、内容も首を傾げるようなものだったらしい。さっちゃんは、首を傾げた後、ポチポチとやる気なく返事をする。
「どーした?」
尋ねると、やはり首をかしげたまま送信ボタンを押して、一言答えてくれた。
「謝罪」
「何について?」
答えに重ねた問いは、もう一度首を傾げるという行為で返ってきた。
何について謝っているかは解らないらしい。
さっちゃんが鈍いわけではない。
ぼーっとしていることが多いさっちゃんだけれど、ぼーっとしている…遠くから物事を眺めることが多い分周りのことを気にかけている節がある。
さりげない気の使い方もできる。ただ、恐ろしくマイペースなため、タイミングはかなり独自のものだ。 ただし、俺に関することはそれが働かないところもある。
だから、今回の少年のメールは、さっちゃんの反応からして、俺に関することではないようだ。
俺はいつも通り、『そっか』と気のない返事をして、皐月祭のパンフレットを眺める。
ステージでやることは恒例行事のようなイベントが多い。
昼前に行われたであろう公開決闘は、昨年俺が親衛隊長とやったとき、面白いので来年もという運びになったらしい。
煽り文句は、あの熱い戦い、再び…!?
…らしいが、決闘内容が箱の中身はなあにでは、熱いとは言い切れないと思う。
今は昼もすぎて、ステージでも何もやってないような、わりと静かな時間といってもいい。
出展物や、出店をまわるにはもってこいの時間。
パンフレットを見ながら、すでに携帯をポケットにしまっているさっちゃんに声をかける。
「何処か、いきたいとことかあったり?」
俺がこうしてのんびり祭りを回ってられるのはさっちゃんのお陰だ。
かいちょーいわく、那須晃二使用禁止令をだしたのはさっちゃんだ。
俺を奇条学園にもAP学院にもファンがいるさっちゃんが、なんと言ってお願いしたかはわからない。解らないけれど、しっかりそのお願いは通っている。
だから、俺はここにいる。
さっちゃんは何もいわないし、言おうとしないが、俺とこうして祭りをまわるためだけに、使用禁止令をだしたわけではないと、俺は思う。
会長には親切心か下心かわからないといったけれど、下心、だと思うわけだ。
しかし、灰谷は首を振った。
「あれぇ?一緒にいたいだけで、使用禁止にしたわけじゃないでしょ?」
俺の言葉に、最近定番になっている苦い顔をするさっちゃん。
使用禁止にしたことがばれていることに対してのその顔は、いつもとは少し違って、失敗したという雰囲気がある。
いつもは思いの違いと、寂しさと、怯え…だとおもう。
「後夜祭」
「ああ、さっちゃんが歌うやつね」
「…条件、いう」
「ああ、じゃあ、それまで待つね」
何か決心したように頷く様子に、ここのところの灰谷皐をおもいだす。
まったく、普段と変わらない。
苦い顔をされるのも、性急な性春になってしまうのも、懐いてくるのも、牽制する様子も。
相変わらずいつも通り。
かわったことがあったとすれば、変わりないこの日常を振り返るようにした問答くらいだ。
その問答が、灰谷に何か決心をさせたわけではないだろう。
俺が使用禁止にされたのは、今年はまったく俺に話がこなかったことを考えると祭りの準備が始まる頃だったのだろう。
そうなると少年がこちらに来たことがきっかけ、というわけでもない。
恐らくこの状態が長く続いたことが原因なのだろう。 ソレこそ誰かがいったように、『ほどほどに』しようと思ったのかもしれない。
思わず笑いそうになって、俺は口元を押さえる。
「晃二」
「うん、何もないよ?あ、さっちゃん、準備とかいーの?準備」
「…四時から」
「あ、じゃあ、まだだね。せっかくだし、もう少し回ろうか」
「ん」
何を決心させたかは、後夜祭の楽しみにでもしておこう。
そう思ってしまう俺は、性格が悪いとよく言われる。