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学園のグラウンドに設けられた野外ステージ。
学院生と学園生が入り混じり、学院、学園のバンドがこぞって参加する後夜祭ライブは、熱気に包まれる。
トリはやはり、さっちゃんのバンドなワケだが。
皆がグラウンドにいるなか、何故か、俺は無駄に広い渡り廊下にいた。
「ひどい。あんまりだ」
だまし討ちにあった。そんな気分で、渡り廊下で嘆く俺に、隣にいるさっちゃんは首を横にふった。
「条件」
「いや、そうだけどもね」
近いんだか遠いんだかわからない場所からケイさんが笑う声がした。
「今さっき言われてたみてぇだしな。ま、おまえ、土壇場じゃねぇとこんなこと、しねぇだろ?」
「だよねー番長しないよねー」
「する意味がわからんとかいいそうやもんね」
振り返って、さっちゃんの愉快な仲間達に俺は冷たい視線を向ける。
「黙れ、コスプレ集団」
愉快な仲間達は、奇条学園の制服を着て、笑う。
三人三様の着こなし方だが、誰一人としてネクタイを締めているものはいない。
「俺とか現役なのに、ひどい」
そういった坂井ちゃんは、確かに現役だけど、学園生ではなく学院生だ。
「この学園の生徒で無い限り、コスプレだと認識するから」
ケイさんなんて、コスプレしてタバコすってて、風紀に見つかって、胡乱な顔されたの知ってるんだから。
発見者は、なんと風紀委員長の水城。
でも、水城ががっくりと肩をおとして終わったというのも知ってるよ。
二人は知り合いというか、まぁ…うん。仕方ないね。
「で、俺は、さっちゃんのかわりにステージに出て行けばいいわけね」
「おう。余興がおわったら、真打登場させてやっから」
俺は余興なわけですか。
いや、余興だけどね…。
「番長そう嫌がりなさんな~相変わらず、いい声してるんだからいいじゃない」
「そんなこといっても、こんな状態で出るのはアレですよ。中一以来だって…」
「あ、そっか。あの時、ピンチヒッターで出たんやっけ?突然やったっていいよったもんねぇ」
みっちゃんの言葉に、懐かしい記憶がよみがえる。 祭りで、はしゃぎすぎ、けがをして病院にいったボーカリストの代わりだった。
ステージの手伝いをしていた俺は、たまたま歌詞を全部覚えていたという理由だけでステージに立たされた。
ひでぇひでぇと喚き、それでも歌った。
あのときは、ああ、なるようにしかならないんだな。と思った。
マイクの前にたたされて、伴奏が始まって、逃げる前に思ったのだ。やることは一つしかない。
すこしずれてしまったのを無理矢理なおして歌っていると、何かもうハイになってしまって、どうでも良くなり、客をのせることに集中した気がする。
そのとき、緊張する次の番のやつにこういったのを覚えている。
「『死ぬ気で行って来い、やることなんて一つだ』…か」
「何それ?」
坂井ちゃんの疑問に答えてやろうとしたとき、俺の腕をさっちゃんが握った。
「さっちゃん?」
いつもならこちらを見ているさっちゃんは、こちらを一度も見ないで、ただ首を振る。
「そう」
深くつっこまないのは、いつものことだ。
「さて、そろそろおりときますかね」
渡り廊下から、グランドへ。
先にステージに上がってしまったさっちゃん以外のバンドメンバーを見送りながら、先程聞いた段取りを繰り返す。