まぁ、中間テストだの、再テストだの、補習だのの暗い話は昼飯くって忘れた。
でも、この学園は次から次へと話題がつきない。
ここは、生徒を退屈させないつもりらしい。
皐月祭が終わったら中間テスト、中間テストが終わったら、生徒会選挙、それが終わったら球技大会。
そう、生徒会の選挙が、期末テストの前にあるんだそうな。
今は推薦した人、立候補した人の名前の張り出しがされている。
…と、いっても、今回は自分で立候補した人なんて一人もいないらしい。
良く解らず、配布された校内新聞を見ていると、いつものように遼が説明をしてくれた。
この学園の生徒会というのは、投票で決まる。
自分で立候補することもできけど、大体は他薦。
それが無い場合は、クラスから一人立候補者をだして、そこから投票。
前生徒会役員推薦枠というのもあるらしい。
それで、結果、その中から見目がいいとか、あの人が推薦した方に入れるとか、惹かれるとかいうのが選ばれちゃうのがこの学園式なんだと。
他薦で入った人間も、生徒会推薦で入った人間も、いい意味で目立つ人間が多いから、大抵有能だし、有能じゃなくてもそれなりの努力とか人並みに作業するんだから問題は無いらしい。
そんなわけで。
校内新聞や、掲示板に張り出された生徒会役員候補は、この学園の有名人ばかりだ。
現在の風紀委員は三年生の分の補充こそあれ、ほとんどが持ち上がりできる学年であるため、生徒会役員選挙に風紀委員の名前はない。
だから、自然と現在生徒会役員をしている二年生以下のやつらの名前がでてくるわけだ。
橋上 智樹、織田 嘉一、織田 喜一…この三人は、今の生徒会役員。
那須 晃二、灰谷 皐…この二人は有名人。
渋谷 晴樹(しぶや はるき)って誰だろな…戸田 尚…ふうん…って、尚?
「え、お前、立候補とか、したの?」
隣から新聞を覗き込んでいた本人が、小さく短く『げッ』と呟いた。
どうやら知らなかったらしい。
「してない。誰だよ、俺を推したヤツ」
「おー…今の状態の戸田ちゃん推すやつとかさぁ……あ」
しゅうちゃんも新聞を覗き込み、指で押さえて確認したあと、笑った。
一応新聞には誰が誰を推薦したのかということが書かれてある。
たくさんのやつらから推薦されたやつもいるし、一人からというやつももちろんいる。
尚は、たった一人から推薦されていた。
しかし、そのたった一人が曲者だった。
「生徒会長、高雅院 雅、推薦」
「会長が推薦ってことは、生徒会推薦じゃん!すげぇ!つか、何、知り合いだったの、尚!」
眉間に皺を何本か寄せて新聞を見た尚は、その名前を何度か見直しているようだ。
「どう見たって、せーとかいちょだって、なーおちん」
これ以上に面白いことは無いといった様子で、いつもよりぐにゃぐにゃになりながら笑っているのは恭治で、尚のがっくりと下がった肩を何度も叩きながらさらに続けた。
「かいちょ推薦ってことはー当選確実じゃーんね?」
「だよなー会長さすがだねぇ。やることの思い切りが違う」
「あーでもさ、尚って生徒会って柄じゃなくねぇ?」
俺の疑問にちゃんと答えてくれるのは、このクラスではたぶん尚だけなんだけど、その尚が今は説明できるような状態じゃない。
それなら、ぐにゃぐにゃのふにゃふにゃな恭治にきくよりしゅうちゃんに聞いたほうがマシだ。
「んー…柄ではなくてもねぇ。戸田ならありだろうねぇ。すけちゃんは転校生だし、風紀の仕事してるだけでも奇跡のキョウちんにもイマイチ、ピンとこないかもだけど」
なんだ、昔なんか、尚なら生徒会役員もやっていけるんじゃね?的なことがあったのかな?
「抗議してくる」
「いやいや、戸田よ。生徒会長に言い包められるだけだとおもうから、ほら」
「いや、あの人なら聞くだろ、人のはなし」
「いやいやいやいや、ここで生徒会長推薦になってるけど、実は副会長絡んでたら、返り討ちだろ。討ち死にだろー?」
「…何気に今田は俺を役員にしようとしてねぇか?」
「んなこと…あるわ」
といった後、恭治と同じようにケタケタ笑い出すしゅうちゃん。
どうやら二人そろって、尚が生徒会役員とか面白すぎる。という意見らしい。
二人とも、この髪マニアが生徒会役員とか、この学園終わっちゃうから止めたほうがいいとおもうぞ。
とは思うものの、面白いなぁとも思う俺であった。
いやだってさー生徒会にソフモヒの不良とかいたら面白くね??
で、だ。
結局、尚は抗議とやらに行ったらしいんだけど、やっぱり言い包められて、『しかたねぇよ…』って部屋で呻いた。数時間後のできごとだけど。