放課後。
中間について煩い担任から逃げて、まだよく知らない場所に出た。
ここにきてから一ヶ月。
用の無い場所なんてたくさんあるわけで。
まぁ、なんだ。
迷子というヤツだ。
やべー…携帯で電話したのがいいのか?でも、此処がどこかなんてさっぱりわかんねぇしな。それとも、人を探したのがいいのか?人っ子ひとりみあたらねぇよ!
呆然と歩いていると、何か外につづく場所に出た。
上履きのまま、俺は外に出る。
外にでりゃ何とかなるだろう!って思ったわけだ。
不意に、声が聞こえた。
誰かが大きくも小さくも無い声で歌っている…つうか、聞き覚えある声だ。
この前、初めてステージの上で歌っているのをみた。
のりがいい、テンポのはやい、ロックだと思うんだけど…を歌って、後夜祭を盛り上げていた。
鼻歌すら聞いた事がなかった俺には、すげぇ新鮮で、なんか、本当、すごかったんだ。
でも、この前の後夜祭とは違って、静かな歌だった。
ああ、こんな歌も歌えるのか。なんて、ちょっと思った。
そう思えば、特別教室が固まっているあたりに、部室があると聞いた事がある。
じゃあ、この辺はその辺りなのかな。と思った。
普段は防音設備がしっかりしたところで歌っている十夜から聞いた。
じゃあ、此処は特別教室が固まってる辺りで、防音設備がしっかり…って。
「聞こえてるじゃん!」
思わず大声を出した俺に気がつき、歌がとまり、よく見慣れた赤い頭が一つの窓から俺を見下ろしてきた。
「……総長?」
「窓開けてちゃ意味ないだろ防音!」
思わず突っ込んでしまった俺。
「…ん」
三階あたりにいる赤い頭が…皐が頷いたのが見えた。
俺、結構視力はいいんだぜ。変装に眼鏡なんてしてたがな!
「快晴」
カイセイ?改正?何直すんだ?と思いながら、皐を見上げながら首を傾げる。
「空、青い」
そりゃ青いよ、昼間だし、曇りじゃねぇもん。と思いながら、とりあえず頷いておく。
「気持ちいい」
「あー…んー…?とりあえず、気持ちいいんだな、よかったな」
俺は十夜じゃない。
皐の単語を全部理解することはできない。
返す言葉が、なんか適当になっちゃうのも、ま、仕方ないと思ってる。
だから、その代わり聞くことにしている。
「んで、気持ちいいから、歌ってたのか?」
「別に」
ちょ、皐、すごくそっけない返事だな、おい!
「あーもう…なんでもいいわ。とにかく此処はドコだ!」
今度は皐が首を捻った。
「総長、迷子?」
「おう、まごーことなき、迷子だ!」
15にもなって、偉そうにいうことじゃないけどな!
迷子は迷子なんだよ!
そしてその後、窓から皐が姿を一瞬消した。
「総長、十夜、恭治、来る」
再び窓から姿を現していったのが、それ。
…とりあえず、名前、並べんのやめようぜ。
十夜か恭治が来るんだな?ここまで、くるんだな?…たぶん。
「皐、もちっと単語じゃなくて、繋げて話せよ、わかんねーよ」
俺をじーっと見つめたかと思うと、たぶん、笑ったんだと思う。いくら目が良くても、皐の表情の変化は小さすぎる。
「…努力………する」
おお、一応単語じゃなくなってるな!…間が開いたけど。
しばらくすると、恭治がやってきた。
恭治いわく、十夜にいわれてきたんだそうな。
じゃあ、アレか。
十夜に知らせたら、恭治が来るって言われた。かなんかだったのかな、あれ。
と、思って、三階の窓を見上げる。
そこから軽く手を振ってくれる皐に手を振る。
俺が恭治とふざけながら帰る途中、途中で止まった歌が、また、静かに始まった。
防音の意味ねぇってば!