眼鏡は記念に会長にプレゼントしようとしたら、全力で断られたよ。なんだそれ、酷い。
教室に行くと、もう、ざわっとすることもなかった。
生徒会長が制したって話は既に千里を駆けたみたい。
「ひろぽん、おはよんす」
「日本語話せよ」
東海林君はいつもクールです。
さっちゃんはまだ来てないみたいです。というか、最近避けられてます、しょんぼりしま…せん。
正直ね、避けられて当然なわけですよ。
でも、さっちゃんは『おわり』にはできないと『いった』のだから、たぶん、また、近くに来るんだと思う。
だから、とりあえずは、放置。
「選挙出るのか?」
俺が眼鏡とられたことより、校内新聞で立候補者あげられてることのほうが、クラスメイトは大事。
まぁ、ヅラ取られた時点で熱は随分下がったからねぇ。
「んー…でなきゃいけなくなっちゃったんだよねぇ」
「もしかして、眼鏡、会長が奪ったのそのせいか?」
「あったまいいよねぇ、しょーじくん」
答えながらも、日課になっている行為をする。
重たいカバンから、バインダーを取り出すと机の右端におく。
バインダーには、受けている全教科のノートであるルーズリーフが挟まっているから、机の中に入ることは無い。
クラスの連中はそれをよく知っていて、勝手にノートを拝借して、お礼の粗品とともに返ってくることが多々ある。
粗品にたまに高級品が入ってるのは、なんというか、もう、金持ちだなぁと思う。主に食べ物なのは、ふつうだけど。
「いや、別に関係ないだろ。で、何に立候補することになるんだ?」
「んー…不特定多数の推薦者による推薦の場合は、ふさわしいと思われる役職を事前に調査し、そこに当てはめてからの投票になるらしいよ」
「相も変わらず特殊だな」
「そだね」
頷く俺。
東海林くんと話すのはとても楽。当たり障りが無い言葉を選んでくれるし、あえて突っ込まないスタイル。 やっぱりこういうのは、類は友を呼んじゃうものらしい。
凸ときたら凹。ってかんじの集まり方をすることもあるけど、俺の周りは大抵こんな感じ。
あ、でも、ちょっと俺の性格に諦め入ってる。めんご。



その日の放課後。
新聞部に突撃されて、眼鏡争奪戦の結果と、生徒会選挙についての質問を受けて、教室に荷物をとりに戻った。 新聞部の連中、荷物ぐらい持って行かせてくれたらいいのにさー…。
ノートを回収しきっているかどうか確認するために、バインダーを開いて、ぺらぺらと捲る。
見覚えの無い、水色の色つきルーズリーフを見つけた。
これ、俺のじゃないなぁ…なんて思いながら、ルーズリーフを見つめる。
几帳面な文字は、横線に沿って綺麗に並んでいる。
いつもごつい手が描き出す様を眺めるだけしか縁のないソレは、よく見知ったものだ。
「ラブレターはさすがにさ…俺も照れるよね」
読み終わって、一言呟く。
多くを語らず、表情にも出ない、それでも感情を叫ぶ人は、メールは意外と簡潔でわかりやすい。
そして、紙に落とした言葉は謎かけのようで…情熱的だった。
ラブレターの内容は…だめだめ、考えただけでも照れちゃうし〜。
「さっちゃんは、俺のこと、好きだなんて紙面でも言わないんだねぇ」
ため息をつく。
そんなに長くも無い文面を何度も目で撫でるように読み、そして、目を細める。
たいした詩人。
思わず口元が微笑んでしまうのは純粋な好意だ。
「さっちゃん頑張るねぇ…でも、まだまだ遠い」
パタンとバインダーを閉じる。
さて、今回は俺から近寄ろうか。
びっくりするだろうなぁ。