そうして捕まってしまった俺は、生徒指導室にいる。
目の前にはミヤちゃん…ではなくて、何故か見たことのない、この学校のやつ。
「……えーと…ミヤちゃん、は…?」
思わず聞いてしまうのも仕方ねぇだろこれ。
「ミヤちゃんせんせーは、しょーりせんせーとエロ川せんせーに指示したくせに、生徒を待たせ無ければならない用事ができて、うっかり、俺が君を捕まえておくために差し向けられました」
D組では見たことのない奴なんだけど、ノリが、さぁ…明らかにD組。その上、このユルフワなかんじは恭治とか晃二とかあの辺な感じ。でも、外見はチャラいとか軽いとかナンパとかそんなんなくて。
なんつーの?日向ぼっことかしてそうな。正に『ゆるふわ』。
そんな奴がいうには、ミヤちゃんはどうやら用事ができたから、俺を待たせているらしい。
そんで、俺が待っている間に逃げないように、こいつを差し向けたらしい。
ていうか、しょーりせんせーとエロ川せんせーって誰だと一瞬思った。けど、俺を捕獲したやつの一人はエロい声してたし、放送されていた先公は勝機だの勝利だのいう名前だった気がする。あだ名、かなぁ。
広いとはいえない生徒指導室。
日当たりばっかりがいい、生徒指導室。
正直、カーテンを閉めて欲しいくらい日差しが攻撃してくる生徒指導室。
本気で帰りたい、俺。
「なぁ、俺、帰るけど」
「……それは俺から逃げるということかな、銀髪の人」
「ぎんぱつのひと…」
ここに来てから一番インパクトがある呼ばれ方だと思う。
なんだかんだ、晃二のいうところの少年ってのもなれちまったし、他のやつらは俺のことを少年なんていうやつはいない。
すけちゃんとか、すけちゃんそーちょーとかいうのも、なんというか、あの二人なら仕方ないだろうとか思ってしまうから、ま、いっか。な感じだし。
まさか『銀髪の人』とか呼ばれるとは思っていなかった。
確かに、銀髪だけどさ…他に、チビとか短足とかあると思うんだけど。チビとか短足とか言われたらきれるがな!
「それは、駄目絶対」
何か聞いたことのあるフレーズを言いながら、そいつは机にだらっと頭をおいた。
「だから、先生がきたら俺を起すという使命を君に与える」
「や、いらねぇし」
「遠慮するな若人よ」
「や、たぶんこの学校の生徒ってことはおんなじくらいだし」
「ふむ、俺はたぶん君と同じ年齢だ、若人よ」
「だったら、あんたも若いって」
「まぁ、とりあえず頼んだ若人よ」
といったと思ったら、おやすみ五秒。
はえーよ。
俺、断ったじゃんかよ。
マイペースすぎる。
とりあえず、俺は逃げたほうがいいんだよな、たぶん。起さなくても、ミヤちゃんがきたらきっと起すだろうし。
よし、起さないように逃げよう。
俺はそっと、立ち上がろうとした…が。
「かい、がん…!!」
「って、おい!」
「逃げるの、駄目、ぜったい」
そういって、驚いている俺の手をがっしり掴んで、そいつは再び眠りについた。
何、このほかから見てもキモい光景…。
男に手を握られて嬉しいと思えるアレはないぞ、俺には。
振り払って逃げようとしても無理だった。寝ているくせに、掴んだものを離そうとしない。
こいつ引っ張って、生徒指導室から逃げるべきなんだろうか。
とか考えているうちにミヤちゃんが来ちゃったのはいうまでも無い。
「なんだぁー仲いいなーお前ら」
「いや、ミヤちゃん、これは違う」
捕まれていない方の手を軽く横にふりながら、俺がいうと、ミヤちゃんは頷いた。
「そうだろな。マイペースだもんな、渋谷(しぶや)」
「へー渋谷とかいうんだ」
「名前すら教えてくれなかったんだな、渋谷」
「ん?や、なんか、聞く暇すらなかった?」
「ああ、まぁ…渋谷だしなぁ」
そんな納得するほどマイペースなのか、こいつ…。
と思いながら、微妙な顔をしていると、ミヤちゃんは渋谷を起しにかかった。
「渋谷渋谷、戸田がそこを通りがかってるぞ」
「…は!!」
その一言でガバッと起き上がる渋谷。
戸田って…尚のことか?
首をかしげながら二人の様子…というよりも、ほとんど渋谷の様子を眺めていた。
「ミヤちゃんせんせー、どこ?なぁお何処!?」
今、ネコの鳴き声みたいの聞こえたの気のせいか?
「渋谷のニャンちゃんはもう行っちゃったみたいだぞー。渋谷が起きるの遅いから」
ていうか、尚かどうかはわからないけど、尚は此処から見える範囲にはいなかった。
戸田ってやつ他にもいるのか…ていうか、さっきからこっから見える範囲で誰も通ってないぞ。
「ニャンちゃん…とてもいかがわしい響きですね、ミヤちゃんせんせー」
「あ、そこにくらいついたか…。まぁ…渋谷、こいつを捕まえておいてくれてありがとう」
「いえいえ、銀髪の若人はとっても大人しかったですよ」
「たぶんお前の雰囲気に飲まれてるだけだがな」
まったくその通りだよ、ミヤちゃん…。