こってりと生徒指導室で絞られて、補習でなくてもいいから、風紀の連中にこってり勉強教えてもらって再テスト高得点とれ。ということと、今日遭遇したゆるふわ…つうか、不思議なやつは、渋谷晴樹(しぶやはるき)というらしい。
ははーん、例の新聞のってた奴だな。
俺、そういう記憶力は意外といいんだぜ。
そうだな…始終あの調子なら、確かに、有名人だよなぁ。
なんて、俺は感心していたんだ。呑気に。
…呑気すぎたらしく、俺がうんうん頷いているのをいいことに、ミヤちゃんは渋谷に俺が尚と同室であることを教えた。
渋谷はその瞬間に目を光らせた。
あれはきっと、日当たりが良すぎる指導室のせいではないと思う。
そして、今。
俺…ではなくて、尚は、珍しく追いかけられている。
「なんで、てめぇがいんだよ…!」
「しのんに入れてもらったから」
『しのん』というのは俺のあだ名らしい。
この学園来てからというもの、俺のアダ名が増えた気がする。なんでだろうなぁ。なんか、びっくりするぐらい恥かしい二つ名がどうでも良くなるくらいインパクトが強いあだ名ばかりのような気がする。
どうでもいいけど、二つ名は、銀光のシノ。…仲間内にはシノ銀と言われ、銀行扱いな二つ名だったから、余計に恥かしかった。
よく考えれば、やっぱり二つ名のが恥かしかった。
でも、そのあとにそんなに嫌なら『シルバーレイにしてやろうか』って言われたときは、俺は本当に、何でこんな遠くに来てしまったんだろうとかおもってしまったくらい、気持ちが遠くなった。
恥かしすぎる。
「アホか篠原、髪弄らせろ!」
「ちゃっかり巻き込むなよ、マジで!」
『しのん』が俺のことだとわかったことにも驚くが、ちゃっかり隙があれば髪を弄ろうとする尚に、俺もびっくりだ。
気持ちを遠くしている場合じゃない。
その間にもソファを挟んで尚と渋谷は追いかけっこをする。
なんかアレだ。
仲良く喧嘩するかんじ。
「何さ何さ!なぁお、俺を嫁にするって約束したんだから、潔くお縄についてたらいいよ!」
「アホか!あんなん、お前を女と思っての、幼少の過ちだ!嫁は女しかいらん!」
「やだよ、俺、結婚式しなくていいし、記念撮影もいらないし、戸籍いれなくてもいいから、なーおがいい。つきあって!」
「お前の戸籍に入れようとしている時点で、お前、嫁じゃねぇ!つうか、息子あつかいだろ、戸籍上じゃ。というか、つきあわねぇ!」
もうなんか、俺が口を挟む問題ではないというか。 意外と、気があってるんじゃないか。とか思う。
嫁?幼少の過ち?
とにかく、俺の座ってるソファの周りをぐるぐる回るのはやめてくれないか。
目で追ってるわけじゃないけれど、目に入るたびにけっこう煩いな、これ。
そのうち溶けるんじゃねぇかな。
バターになってもホットケーキにはしねぇからな。
「じゃあ、やっぱ結婚して!」
「いやだっつってんだろ、いい加減にしろよ、このクソが!」
「ふん!いいもんいいもん、なーおが俺を避けてDクラ行っても、俺はへーきだもん。せーと会はいるもん。付き合うもん結婚するもん嫁にしてもらうもん証拠写真も撮るもん」
さて、何回『もん』って言ったでしょう?
そういいたくなるほど、テンポよく『もん』とかいう男を俺は初めてみた。
しかも、結婚しなくていいとか言ったくせに、一気に全部叶える方向になっている。気のせいだと思う。
しかも記念写真じゃなくて、証拠写真になっている。これはきっと気のせいだ。
「おま、ソレ、結婚する運びになってるじゃねぇか!つうか、生徒会ってなんだ!?」
どうやら気のせいじゃないようだ。
「あれ?尚、渋谷が立候補してたの知らなかったのか?」
「自分の名前あった時点で、他に目なんていくかよ…!!」
「なるほど」
絵にかいたように、手を打ち合わせた俺に脱力した尚がその後、渋谷に捕まって、さぁ、婚姻届だ!と拇印を押されそうになっていたのは気のせいだと思う。
日本じゃ婚姻届出せない…ま、記念とかにはなるだろうけどさぁ…。
いやー…今日は、幻覚が良く見えるなぁ…!
「幻覚でも気のせいでもねぇよ!助けろ!洗髪させろ!!」
ちゃっかりしているところとか、お似合いだと思うけどな、渋谷と尚。
「あ、しのんは俺のこと、戸田って呼んでくれていいよ!」
ほんとにな!