生徒会役員選挙と球技大会が一緒にあると知ったとき、俺は、そんなでいいのか…なんでもありか、この学園。と思った。
いやでも、きっちりテストはあった。
俺なんか再テストもあったから、ずっとテスト勉強をしていた感じ?
っていうか、放課後、寮内、ずっと勉強させられたというか…。
つぎのテストまで、教科書なんてぜってぇみねぇ!
天の幹部の連中ときたら、風紀委員全員使って、俺が逃げても素早く捕まえてくれるもんだからさぁ…。そのうえ、しゅうちゃんや尚まで協力体制。ひどくね?
いや、ま、そのお陰で再テストはいい点だったし、期末もギリセーフで補習を免れた。
いや、本当、ひでぇひでぇって喚いたけど、感謝はしているんだ。小学校以来見たことねぇ点数みせてもらっちゃったし。
そんな夏休みの心配はないぜ!っていう状態で迎えた生徒会役員選挙と球技大会。
やけにカッケー黒ジャージがいっぱいになった講堂に感動して声を上げて、しゅうちゃんに注意されたりもした。
生徒会役員候補演説が始まると、ステージに上がった普段の姿が思い浮かばない皐の様子に驚いたし、あまりにいつも通りすぎるくせに、なんかかっこよく言い切った晃二にも驚いた。
後の演説霞むんじゃないか?とおもったら、生徒会のキラキラした双子はまるでコントか漫才かいった演説を見せてくれたし、無口侍ないつだったかのタツヤのつれもかっこよかった。
なんだ、この学園。なんかもう、雅孝さん、死角がねぇよ!
そのあとは…こんなこといっちゃったら怒られるんだけど、戸田夫夫(とだふうふ)の登場だった。
もちろん、一人ずつだったけどな。
尚は、生徒会長に推薦されたことを嘆いていたような気がするし、渋谷に至ってはなんとなく、といったような理由を言った。
ああ、こんな後輩じゃないとあのメンツが作る生徒会には入れないんじゃないかな。と、それこそなんとなく思った。
まぁ、生徒会役員選挙とか。
そんな小難しいことはいいんだ。
「なぁなぁ、MVP決めて生徒会とMVPが対戦ってマジ話?」
「ん?マジ話マジ話。今期の生徒会連中はあれで皆スポーツ万能でさー。生徒会長なんか、スリーポイントシューターとか言われててー」
「あーなんか、あの人何やってもさまになりそうだしなぁ」
「それは確かに。で、だ。もし、生徒会にも勝てたら、運動神経のいい先生と対戦になるんだ」
なんというか、お祭り騒ぎと勝負事には手を抜かない学園だなぁ。
俺の感想なんて置いといて、しゅうちゃんは手に持ったバレーボールを指先で回すと、いつになくやる気な様子でにやりと笑った。
「生徒会もすげーんだけど、先生だよなー。ミヤちゃんと堀川と香田は確実に出てるからさぁ、やる気でるっつーか」
「ミヤちゃんはいいとして、ほりかわ?こうだ?」
「この前、すけちゃん追いかけられたじゃん」
しばらくの間、聞き覚えのない先公の名前を聞いて思い出すために首を捻ったが、ふと、渋谷がいっていた名前を思い出した。
「エロ川せんせーとしょーりせんせー??」
「…うわぁ…わかるけど、誰に聞いた?」
「渋谷」
しゅうちゃんは一瞬にして納得したのか、ああ。と言った後頷いた。
…渋谷は本当に有名人らしい。
「まぁ、渋谷なら仕方ない。あのインパクトを与えられると普通の名前じゃ反応できねぇーよなぁー」
しゅうちゃんと同じように頷いてしまった俺を攻めないで欲しい。渋谷は本当にインパクトのあるやつなのだ…。
渋谷、恐るべし!
「しの〜ん!しのーん!」
ことわざってほんとに起こるんだな。
トーナメント表付近で座り込んでいた俺たちに駆け寄ってきたのは渋谷だった。
「なぁーおが、ドッヂの順番すぐだから呼んできてって〜」
「てか、渋谷、尚の言うこと、きくんだ…」
思わず感心してしまった俺に、渋谷はえへんと胸を張った。
「勢いで押し倒そうとしたら、回し蹴りされて、これでチャラにしてくれるって〜えへ〜尚に本気で避けられたら俺、息もうまくできなくなっちゃーう」
「なんか妙にリアルなたとえだな」
隣でぼやいたしゅうちゃんは、ここにいない尚を哀れんでいたような気がする。
「あんなん照れ隠しだって、渋谷〜」
気がするだけだった。
ごめん尚。俺はすごくお前を哀れに思った。
ドッヂボールをやっている場所に着くと、やけに体操服の衿が伸びてだらしのない格好になっている尚を見つけた。
「……尚」
なんだか、目から鼻水が出てきた。…気がする。
「それはなんだ、なんか、腹立つからやめろ」
のびた衿を直そうともしない様子に男気すら感じるのはたぶん気のせいじゃない。
「しのん連れてきたよ!ご褒美のちゅーは?ちゅーは?」
「…かかと落としでいいか?」
だるそうに立ち上がった尚は、もう殴る蹴るでしか渋谷を遠ざける方法がないことを知ったらしい。
「うえ?かかとにちゅーとかまにあっく〜」
「…地獄の門番に三文くらい払ってやるから、さっさと行って来いよ」
つっこみもだんだん厳しくなってきたのが、なんか泣ける。
ここ一番泣ける映画より泣けてくると思う。…かわいそうで。
「んなことより、篠原、出番だぞ、ドッヂ」
ちょうどドッヂの試合が始まるらしい。
今回は一年のSクラスと戦うことになってるらしいけど、Sクラスっつったら、十夜だよなぁ。となんとなく思っていたら、試合前の挨拶時、隠しきれないプリン頭を発見した。
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