「十夜、いい加減染めさせろし!」 怒鳴ったのはもちろん、頭髪マニアの尚だ。 そうだよなーせっかくの男前だいなしだよな、プリンは。響き可愛いしなぁ。 「お前の兄貴に聞け!」 あ、尚が苦い顔した。 たぶん染めさせてもらえないからだろうな。 「十夜〜ドッヂじゃなくてバスケじゃなかったかー?」 そして俺は素直に、球技大会前にきいていた十夜の参加種目との違いに首をかしげた。 その間にも、コートの指定の位置につく俺たち。 「雅の差し金っス。つーわけで、篠原さんには申し訳ねぇっすけど、全力で潰しにいきます」 全力でとか、燃えるじゃねぇか! ってか、雅って誰だ。とか思う前に、試合開始の笛が鳴った。 最初の方は勝負というよりも当て合い。 それもそうだ。人数がある程度絞られるまで、勝負になんてなんねー人数がそこにいんだから。 だんだん少なくなってくると、ここからが本当の試合開始。 もちろん、俺も尚も十夜も内野にいる。 「十夜、覚悟ぉおお!」 「……力みすぎだ、篠原」 十夜に投げたボールは大暴投というか、ホームランぎみ。 ボールは何処か遠い彼方に飛んでった。 それが池ポチャして、ぷかぷか浮いてたなんて俺は知らなくて、後からそれを見つけてしまって、思わず池の主である鯉介さんにあやまった。 …ちなみに、鯉介さんはでっけぇナマズである。 誰だ、ナマズに鯉介さんって名前つけたの。 新しく用意されたボールを十夜が持って俺に投げつける。 横投げで地面すれすれ。 早いうえに避けにくい。しかも、足狙い。 避けた後にボールをとられる可能性は高いけれど、避けるのが難しいボールに思わず舌打ち。 俺が華麗なステップを踏んで避け…れなかった。 「…篠原、イマイチきまんねぇのな…」 何も無いところで後ろにすべってしりもちついた挙句ボールが当たったなんて、何かもう穴に入りたい! 結果はSクラスの勝ち。 尚が最後まで粘って十夜を撃破したんだけど、十夜を撃破したあと、内野が1対1になったくらいに、十夜の外野からの攻撃で撃破された。 暇になった俺たちはバレーボールに参加しているしゅうちゃんを見に行くと、順調に勝ち上がっているようだった。 「今年はバレーボールに役員候補も生徒会もいねぇから、うちが優勝狙えそう」 なんて言ってた。 派手なメンツは運動神経も派手らしい。 なんとなく納得だ。 そんな派手な役員候補である連中は、本当に派手な活躍を見せていた。 まずは地味なようで激しい卓球。 例のキラキラ双子がやらかしているらしい。 今こそ双子の必殺技を見せるべきだ…!といって、ダブルスで前後に並び、横からひょこっと出てきて幽体離脱〜とかいってるらしい。 いや、おまえら、にてないからさ。 っていうのと、ネタ古いってのと、双子兄のあまりにもそっくりな某旧ロボットボイスに、思い出してはまともにサーブすら打てないという状態が続いているらしい。 兄弟と言えば、那須兄弟も何か、バドミントンの会場でやらかしたらしい。 高らかに良く解らないが、いくわよ、なんたら婦人!とか宣言したあと、技名を宣言しながら試合をし、目で追うのが大変なラリーを続け、からくも晃二がバドミントンの頂点に立ったらしい。 ちょっと待て、その試合ちょっと見たかった! 他にもいつも眠そうな皐が開眼でしゃっきりした姿で、バスケ参加。長いリーチで狭いコートを駆け回っているとか。スリーポイントマシーンとは明日当たるんだって。すげー。 渋谷は意外にテニスをしていたようだ。ぎゅんぎゅんと自分で効果音を放ちながら、柔軟に球を拾い、相手の油断をついているらしい。 そんで最後にラスト侍。これこそ、まさにラスト侍。……。うん。とにかく、無口な人はなんかもう、倒すのなんて無理です。というオーラでばったばったと相手を薙ぎ倒して勝ち進んでいるらしい。サッカーで。 …薙ぎ倒すってレッドカードじゃねぇの?? そんなわけで、今のところ生徒会役員候補で負けてんのはうちの尚だけ。 「肩身せめぇ」 尚が呟いた。 けど、あれは相手が悪いし、生徒会役員と役員候補の超人類っぷりを見たら仕方がないと思う。 あと、特に何も触れられてない恭治や遼とかもそれなりに活躍というか…十夜と同じように生徒会の手先として活躍しているらしい。 恭治はサッカー。遼はテニス。 勝ち進んでいるらしいので、明日は役員候補をめったうち…かもしれない。 「どんまい」 「いや、篠原にいわれたかねぇよ」 いや、そうかもしんないけどさー。 「そんなだから、渋谷に襲われるんだって」 しばらく尚は黙った後、ゆっくりと笑顔になった。 諦めが見えた気がする。 「…篠原、夏休み、うち来いよ」 「は?なんのつながり?」 「いいから、来いよ」 すげー笑顔なんですけど。 なんか、諦めとかじゃない気がする。なんだろう、これ。なんだろう?? ま、尚の家には興味あるから、行ってみよう。 前聞いた話じゃ、地元一緒らしいし。 すげーよな、世間って狭めぇってほんとうなんだよなぁー。 あ、でも、尚の家の人が全員俺の髪洗いたがったらどうしよう。尚のあれが遺伝でないことを祈りたい…。 そんなことを考えながらも、この日はSHRで投票用紙を配られて終わり。 そう思えば結果発表っていつなんだろうなぁとか思いながら、何事もなく寮に帰った。 next/ 二人の変装top |