球技大会二日目のお昼休み。
教室でジュース飲んでるとだいぶお疲れなさっちゃんが帰ってきた。
「お、勝った?」
「…ん」
頷いたさっちゃんに、あけていないスポーツドリンクを渡すと、男らしくいっきのみをしてくれました。
あら、豪快。
「じゃあ、たぶんさっちゃんがMVPだな。さんきゅさーんきゅ」
タオルを渡してニコッとわらうと、さっちゃんがもう一度頷いた。
応援に行かなかったことについて何もきかなかったのは、さっちゃんが俺が応援に行かないことを知っているから。
去年は一応探したみたいだけど、今年は探しもしなかったみたい。
「さて、そろそろ放送室いこうか、さっちゃん。座談会だよね」
俺はペットボトルの蓋を閉めると、ゴミ箱に投げ捨てた。
カコンと軽い音を立てたペットボトルを見送って、放送室に足を向けた。
「…まぁ、晃二、だから…」
さっちゃんの呟きは聞こえなかったことにしておこうかな?
後ろからモソモソとついてくるさっちゃんを確認することもなく、放送室に向かうと、役員候補が既に揃い踏みだった。
「きーてよ、こうちゃーん!俺ら優勝できなかったんだよー!!」
「あの卑怯技だけでは…難しいっていったのに」
どんな手を使ったかは、噂で聞いているよ。あとで、見せてもらおうかな、一発芸。
「大丈夫、尚ちゃんも、ハルルンも優勝してないから〜」
「あ、コージー久しぶり」
はるるんは相変わらずワンテンポずれてる。今日は珍しく尚ちゃんが大人しくはるるんに引っ付かせてるから余裕なのか、こちらに目を向けてくれる。
だいたい尚ちゃんで手いっぱいだもんねぇ。
「昨日もあったんだけどねー。まぁ、うん。ハルルン久しぶり」
ハルルンが相変わらずなように、俺の様子も相変わらずだったため、尚ちゃんがこれまた微妙な顔をして俺を見た。
「相変わらずワケの解らん呼び名つけてるんですね、那須さん」
「うん、まぁね。結構考えるの楽しいしね」
尚ちゃんは頭髪マニアだし、朝は弱いけど、結構真面目というか、律儀なやつだから、俺や渋谷の発言にいちいち反応を返してくれる。
可愛い後輩である。
不意にぐいっと体操服の裾を引かれる。
「何?さっちゃん」
「……」
さっちゃんは何も言わなかったけど。置いてけぼり状態が嫌だったんだろうね。
なんだかんだ、さっちゃんの交友範囲はそんなに広くない。
風紀の連中、少年、会長、俺、おにーたま、智ちゃん、バンドメンツ。そんな感じだしね。
無口だし、あんまり交友関係を広げようとか思ってないんだと思う。
いくら有名人がここにそろっていても、名前や噂は知っていても、親しくはない。
有名人同士が必ずしも知り合いではないだろうし、ましてや尚ちゃんやハルルンは学年が違うから余計にだろうね。
だから、ここにいるメンツでは俺と智ちゃんが知り合い…なんだけど、智ちゃんは今、無口を演じているし、人間模様を見て楽しんでるから、さっちゃんと同じように話をしないし、絡んでも来ない。
そうなると、さっちゃんはひとりぽつんとしちゃうわけだ。
それに寂しさを感じることは、そんなにないとは聞いた事があるけど、俺についてはすべてが例外…なんだって。
とりあえず、俺が交友範囲広くて、さっちゃんを置いてけぼりにしちゃうと、まぁ、たまにこうなる。
「うんうん、話さないとわからないからねー。ま、こんなとこで話してないで、放送室入ろうか」
俺の態度は学園で有名なカップル…になるか、一応。…の、片割れがとる態度ではないけれど、誰もそのことについては何も言わない。
思っても言わない。それは、良くあることだ。
「それもそうだよね〜はいろはいろー!」
俺の後半の言葉に頷いて、役員候補は放送室に入った。
座談会は、司会進行役がいない。
朝から流している校内放送の司会進行と代わって放送室に入るからである。
「はーい!昼飯たべてる〜?昼飯も食わしてくれずに放送だよ!毎年恒例、生徒会役員候補ほうそうだよ〜」
しかし、今年はお祭り大好き、司会はいつもやってます!というかっちゃんがいるからね。仕切ってくれるみたいです。
「というわけで!右端からどーぞっていっても、音声だけだからどっちが右で左かなんてわかんないと思うけど!とにかく、はい!どーぞ!」
なんと、右端はさっちゃんでしたー。
またトップバッターだねぇ。
「………灰谷」
ああ、うん、必要最低限だ。
でも、どっかからきゃーなのかぎゃーなのか解らない悲鳴聞こえるから、それでもいいんだろな、さっちゃんのファンは。
「さっちゃんもうちょっと、お話してあげて」
「…何…を?」
「自己紹介とか?…で、いいんだよねーかっちゃん」
「いいんだよー」
見えてないのに、グっと親指を突き出していい顔をするかっちゃん。まぁ、何事もコミュニケイトだしね。
「…灰谷皐。高二。会長・副会長候補。…できたら、副会長。趣味、喧嘩………で、いい…?」
「趣味までいってくれたら出血大サービスだ。これ。じゃあ、俺も、ソレでいこうかな」
「てか、喧嘩は役員候補としてどうとかないんすか」
左から二番目の後輩が少し遠い目でいってくれた。
君の趣味はわかっているよ、髪いじり、だろ?
「灰谷さんの趣味に歌とかないのが意外かも」
「でも、趣味とかの枠じゃないだけだと思うよ、かっちゃん」
かっちゃんの疑問には、きーくんが答えを出してくれました。
そう、さっちゃんは歌は趣味じゃない。趣味の枠じゃない。手段の一つ、…だったかな?
「それは追々さっちゃんが教えてくれるかもしれないし、くれないかもしれない。気まぐれに」
「いや、コージーじゃないんだから〜」
何気に、後輩は攻め込んでくるね。やるね。
「うん、まぁ。あ、俺、二番手だから。あー…那須晃二、高二、此処にいる皆と面識ある。会長・副会長候補。希望は…秘密にしとこうか。で、趣味はウインドウショッピングとか洒落込もうかな?」
「うわー無理矢理誤魔化した上に…何か、こう、模範的な軽い自己紹介だよねぇ」
「ああいう、緊張しているわけでもなく、さらっと自己紹介とか憧れます」
「あれは見習わないほうがいいと思うぞ」
智ちゃんが何気に酷いことを言ったけれど、俺は気にしないことにしました。ブロークンハートです。
「あ、次は智ちゃんねー」
「橋上智樹、高二。会計候補。今期も会計だ。趣味は…、人間観察と読書…だな」
智ちゃんの趣味に嘘偽りはないけれど、愛読書に偏りがあるとか、人間観察も好きだけど、特に好きな人種というか…組み合わせがありますよ。とか言わない双子と俺は親切だと思います。
「今回の生徒会には無口というか…そんな感じの人が二人いるねー」
「でも、さっちゃん癒し系よ?智ちゃんはクール系。被らない。でも、放送だとすごく静か」
「…癒し…」
「うん、可愛いからね」
「校内放送で惚気やめてくださーい」
「負けちゃおれん。なぁ」
「そこで俺を呼ぶなよ、渋谷」
皆好きなように話すから、自己紹介も終わらないよ。
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