あいつがいなくなった部屋。
相変わらず皐は俺の後ろから腕を絡めてくる。これって、抱き締めてるっていうよなー…なんか慣れたから何もいわないけどなー…。
ソファの近くに立っていた十夜は、ソファに偉そうに座った。足を組むな、長い…うらやましい。
ソファがあるのに行儀悪く机に座ったのは恭治。遼は礼儀には煩いけれど、恭治のことは諦めている節がある。恭治が何処に座ろうが気にしないで、一人がけのソファに座った。
どうでもいいけど、恭治、ローテーブルに足開いて座っても格好つかない。せっかくの美形が台無し。
「で」
十夜が、幹部連中を代表したみたいにはなし始めた。
「総長、俺らにいうことは?」
そうだなぁ。あ、解った。
「久しぶり」
「ちげぇ!」
つっこみが早かった、十夜。さすが、十夜!
「変装までして…!俺らにそんなに会いたくなかったのかよ!」
あれ、そこ?
いや、これはしかたねぇよ。ババァが強ぇから。こういうのも家庭のジジョウッつーの?親父、がんばるっていってくれたんだけど、無理だな。親父の気持ちはありがてぇけど、あのババァには勝てないだろ。
ババァがさ、俺のやんちゃっぷりに切れた。何回目かの校長からの呼び出しだった。別に学校で暴れてるわけじゃない。出席が駄目なかんじだったのと、成績の悪さと、うっかりばれた他校生との喧嘩。
…てのか何回かあった。
俺が退学にならなかったのは奇跡だった。
そんで、ババァは切れたあげく、俺を街から遠ざけ、夜の生活から遠ざけ、俺にいったのだ。
『もし、今度、何か問題起したら、絶縁だから!』
俺は、さすがに絶縁はねぇよって思ったんだけど、ババァは俺の部屋をカラッポにしていた。
いつの間に。
激しいババァだよ、つえーよ有り得ねぇ…。
そして、俺は雅孝さんに目立たないようにヅラと眼鏡をもらった。だよなー天然ものの銀髪は目立つし、因縁つけられるもんなー。ま、それが、有り得ねぇ変装になったわけだが。
逆に絡まれそうだな…ま、お坊ちゃま高校だし、いいか。
と思っていたのもつかの間。
龍哉(たつや)…この学校の副会長なんだけどよ。なんか俺を案内するのがとりあえず定番だとかいって、俺を理事長室から校舎あたりまで案内してくれたんだが。俺は正直だから、思わず、『うっわ、性格悪そう』っていったら、嫌がらせにキスされた。おい、俺のファーストキス返せ!思わずこの学園での友人一号を返上した。おまえは敵だ!
そんで。校舎あたりにきたところで、十夜に見つかって追いかけっこさせられた。
で、こうなった。と。
俺はあれだ。
お前らといて、問題起さない自信とかまったくないわけで。
そら、逃げるわ。
でも、変装は違う。避けるためじゃない。でも、ばれないほうがいい。俺の悪名はだてじゃない。
「や、変装は家庭のジジョウってやつだよ」
「…言い訳ならもっとマシなの考えてください」
遼、疑うな、これマジだ。
「言い訳じゃない!つか、お前らを嫌いなわけがない!」
これもマジ。きらいなわけが無い。
一緒にいて楽しくなかったことがないくらい、いい友人だったんだぞ。俺だって、絶縁さえなければ、あんな真似はしなかった。ちかって!
「じゃ、今までどーりでいいじゃん、そーちょー」
よくねぇよ!問題起さない自信がねぇよ!
「十夜」
俺が腕の中でうなだれていると、俺達を見守っていた皐が、十夜を呼んだ。
「…んだよ?」
「風紀」
「……」
あれ、なんか、十夜が忘れてたーって顔した。
風紀がどうした。目を付けられてんのか、おまえら。
だろうな、だって、茶はまだしも、金、赤、青だぞ。明らかに染めてるし。
「…そう思えば」
あれ?遼も忘れてた?なんか、珍しい。
それに恭治も忘れてたって顔をした。
なんだ、三人とも、自分の素行を今更思い出したのか…
「…いいスか、総長。これから俺がいうことを、よくきいて下さい」
て、十夜いつに無く真剣だな…。