面白い生徒会


「たっちんこんばんにゃー」
インターフォンに向かって超笑顔。
愛想を振るうと開けゴマ。
一般生徒とは違うフロアの、一般生徒より厳重なセキュリティをもつ、その部屋にいくには、特殊なカードキーが必要である。
いくら兄弟とはいえ、同じカードキーを持つことはできない。部屋に行くにはつれていってもらわなければならない。
俺は、まだ階下にいた生徒会長に声をかけて、親衛隊が騒がしい中、最上階のフロアまで連れて来てもらった。
「今日は誰を使った?」
眼鏡がきらりと光る。実家でも学校でもよく見かける兄の眼鏡は俺の眼鏡とちがってちゃんと度が入っている。
「生徒会長さま」
悪い笑顔を浮かべる。そうすると、性格悪そうな顔が更に性格悪そうに見える。
実際、兄は性格が悪い。
「あいつ使うのお前くらいだよ」
「あるぇ?おにーたま、使ってそうなもんなのにー?」
「俺はあくまで副会長。…会長の補佐だ」
謙虚にみせても、計画犯だし、そんなつもりも無いことを知ってる俺は、あえてつっこまない。
「ところで、今日、『王道』を案内したぞ」
「え、今回も案内したの?で、キスした?」
「したした。橋上(はしがみ)にレクチャーを受けたから更に完璧だったと思うぞ」
そういう兄は、楽しそうだ。
一年ほど前、俺はこの学校に転校してきた。
理由は簡単。父の海外赴任に母がついて行ったからだ。
そして、俺の一人暮らしは不安だという両親の心配により、俺はこの学校に来ざるを得なくなった。
何事も形から入る俺は、転校生とはどうあるべきか兄に聞いた。
答えはこうだ。
『クラスメイトと曲がり角でぶつかってトーストを落とすロマンス』
残念ながら、俺は朝はご飯派だった。
男子校でロマンスというのも寒々しいし。
まぁ、バイだけど。
それから兄と俺はネットで転校生の定番を探した。
そして、踏み入れてはいけない場所に踏み入れたんだと思う。そこらに詳しい橋上智樹(はしがみともき)いわく、どうしてはまらなかったんだ、立派な腐男子になれたのに。…らしいが、まぁ、そういうサイトをみつけた。…いくつも。 そして、俺は『王道』と呼ばれる変装を貫き通した。実に一年も。
そこで波乱万丈を起すために、俺は話を辿ってみたのだが、親衛隊に水をかけられ、教科書をだいなしにされ、靴箱をゴミ箱にされ、ついにそれを見かね、挙句ぶちきれたとある親衛隊長に決闘を申し込まれ…と色々あった。
話を辿った結果、色々な人脈と友人ができたりもした。
その友人や人脈がが生徒会の人間であり、同室者の不良仲間だったのだ。
『王道』というやつは偶然にも副会長をしていた兄に手伝わせたお陰で、実にスムーズだった。
しかしながら、俺は変装なんていつばれても良かったし、波乱万丈がなければないで、それでよかった。
その結果、性格は全面的にそのまま。隠れるつもりもまったくなく、暴力を振るわれそうになって逆に蹴り倒し、強姦されそうになって踏みつけにして、親衛隊どもを説得したりもした。
そんなことをしていると季節はあっという間にすぎるものだ。
体育祭があった、文化祭もあった、生徒会主催のイベントも、球技大会なんかも当然のようにあった。
俺は、つつがなく、いかんなく、俺らしく日々を過ごした。 そして、あのオタク、やるな…。あの人ならしかたないよ。だって、那須晃二だもの…。といわれるようになって久しい。
俺はいまやこの学校の特殊な生徒会や風紀委員会よりも珍しい生き物扱いである。
「じゃあ、完璧だわ。変装美少年、まんまだからな。会長も話したら乗ってくれるんじゃないの?あーでも、無理かな?俺が引っ掻き回したし」
「…おまえ、もう会ったのか?」
会ったも何も。と笑ってみせる。
「俺とさっちゃんの愛の巣でなんか会議中よ、風紀委員どもと」
あのカラフルな集団は、街を騒がす『天』のメンバーにして、風紀委員会だった。風紀が一番風紀を乱しているように見えるが、学校ではそれなりに働いているので真面目といえば真面目。
一応、この学校でも、最初は真面目な生徒が風紀を名乗っていたのだが、真面目な生徒ではここの生徒は手に負えなかった。…そして、腕っ節の強いもの達がそろうようになった…結果が、今の風紀委員会だ。
生徒会もそうなのだが、優遇されることが多い風紀に、あいつらは面倒ながら二つ返事をした。らしい。
らしい。というのも、聞いた話でしか無いからだ。
風紀委員長に水城、副委員長に本宮、風紀委員ヒラに湯木。
灰谷は面倒だからならなかったと言っていたが、文化委員長だ。灰谷はある部活に所属しており、そこで神だ神だとあがめられ、挙句、文化委員長になってしまったそうだ。
「橋上がハンカチ噛んで悔しがる姿が見たいから、後でそれを橋上に直接いってやってくれ」
「そのまえに、叫んで悶絶するだろ、あいつは」
「かもな」
「まぁ、でも、王道はさすがに諦めてるだろ橋上も」
「そうだな、お前がきたときは万歳三唱したから、今度は茨道がいいといっていたぞ」
「なに、その痛そうなの」
「さぁ」
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