「MVP誰か、聞いたー?」
「あ、はい、俺が」
何時も兄が話を聞いていないから、聞く癖がついているらしいよ。
「MVPは灰谷さんです」
「じゃあ、バスケ?」
「そうらしいんですけど、今回は、何か、特別処置…とかで…その、言いにくいんですが」
「…何?」
「現生徒会対次代生徒会だ、そうで…」
思わず咽たよ、俺は。
MVP面倒だから校内放送で応援したといっても過言じゃないのに、どうしてそこで、特別処置してMVP戦参戦になっちゃってるわけかしら。
「うっわ、面倒」
俺の反応にそうだよねぇといった様子でサンドイッチを食べる役員候補たち。
いつもと同じなら、うちのクラスのバスケ組が対戦するはずだったのに、ソレでいいのか!
といってやりたいが、あの会長のことだ、きっと既に手は回してあるんだろうな。
そして、やらざるを得ない状況とか作ってくれちゃってるんだろうな。
「さっちゃん、雅ちゃんをとめて…」
「…今回、は、無理」
首を軽く横に振り、サンドイッチはもういいのか、俺が食事を終えるのをじっと待ったりしているさっちゃん。
止められることもあるってことかしらん?
ちょっと、さっちゃんが頼もしく思えたのは此処だけの秘密にしとこう。
「まぁ、それがあるとして…生徒会被ってるんだけど、どうすんのそこ?」
俺が疑問を投げかけたときだった。
ばたーーーん!と俺たちがいる部屋のドアが開き、おにーたまがかっこよく漫画的に現れたのだ。
「説明しよう!現生徒会はそのままで、次代生徒会は、今回のMVP候補だった連中を加えて試合をするのだ…!」
兄上、のりが良すぎてちょっとかっこいいよ。
智ちゃんが兄上の登場に、演じているにも関わらず拍手とかしちゃってるよ。双子も拍手してるし、さっちゃんもポチポチってかんじで拍手してる。
一年後輩はさすがにぽかんとしてるね。
「兄上、待機でござったか」
タイミングが良すぎるから、多分、部屋の外で待機してたんだと思うんだけど、違ったら、兄様に申し訳ないから聞いてみた。
…聞かないのが優しさだろうけど。
「待機でござったよ。さて、そういうわけだから、各自、準備しろよー」
切り替えの早さも天下一品ですね、おにーたま。
そんなこんなで今回はMVP戦の様式をがらっと変えたらしい。
例年通りだと、生徒会とMVPをとった生徒が、MVPをとった競技で対決後、先生方とも対決。なんだけど…今回は、生徒会・先生方混成チームと役員候補・MVP・MVP候補チームで対戦なんだそうで。
放送聞いてなかっただけに、びっくり。
ということで、コートには先生方を含めた有名人が集められていた。
濃い学園なので、もちろん此処にいない奴もいるが、学園有名人博覧会状態で、ちょっと面白い。
俺が入ったチームのメンバーは、さっちゃん、風紀ツートップ、グリーンな修平くん、はるるん、尚ちゃん、俺。
相手チームは現生徒会、ミヤちゃん、堀川先生、香田先生、体育の先生方。
「…で、俺は面倒だから、ちょいっと出たら他と交代したいんだけど」
「はい、却下ですね。皐は今は休んで後半戦、お願いしますね」
何故か全員一致の意見で司令塔になってしまった遼くんが、さらっと俺の意見を流した。
ひどい!
俺が出るならと、さっちゃんも出ようと一歩ふみだしたんだけど、先に遼ちゃんが釘をさしました。
行動パターンよまれてるよ、さっちゃん…。
「前半戦のメンツは、今日試合が無かった人から選んでいきますね。だから、那須と十夜と戸田くんは決定としておきましょう。あと二人は試合が早く終わった順…といっても、そうかわりませんね。今田くん…と、俺でいいですか?」
「異議あり!」
素早く手を上げたのは、もちろんハルルンです。
「渋谷くんは戸田くんと一緒になったら試合にならないので、異議は認めません」
本当に釘を刺すことを忘れません。
遼ちゃんたよりになるねぇ。たぶん、馬車馬のごとく俺を使うつもりだろうけど。



生徒会と先生方の混成チームの先攻でゲームは始まった。
最初っから言い切っているが俺は非常にやる気が薄い。いかにやる気を出させるか…と遼ちゃんや水城が思案する前に、相手チームによってやる気を起された。
「コウ、お前のやる気を出させるために、景品用意してみたぞ」
会長がまずそういった。
景品が何かによっては、俺もやる気を出すかもしれないが。すごく微妙なんだよねぇ。欲しいものは自分で手に入れたいタイプだし…。食券とかはもともと優勝景品として用意されているし。
大型家電は、今ある分でいいから邪魔になっちゃうし。
ゲーム類も一通りもってる気もするし?
「PGの一周年記念限定、非売品のアクセサリー」
会長の言葉に、今の考えを俺はがらっとかえた。
PGとは、プレシャスガーデンというアクセサリーなどを扱っている、最近ジワジワと人気が出てきたブランドで、ブランドができてすぐぐらいからのファンである俺には喉から手が出るほど欲しい景品だった。
できてすぐくらいからファンといっても、未成年が買える額って、金持ちでないかぎりね…。俺がどんなに頑張って金をためてかったことやら…。
アクセサリーの価格はピンからキリまでだが、非売品もらえるほどの貢いでなかったんだよねぇ。
「…死ぬ気で勝ちに行くわ」
誰がその限定品を放出してくれたかは知りませんが。
そんな邪な思いで始まった試合でしたが、開始直後からスリーポイントシューターおよび、マシーンと呼ばれる会長の邪魔をすることに終始するという地味な活躍っぷりを俺は見せた。
点取り野郎は、もちろん会長だけではないんだけれど、確実に点をとるマシーンっぷりを知っていたら、やはり確実に邪魔をしたほうがいいだろうなという判断が成されるわけだ。
攻め込む要員は俺だけじゃない。
運動神経がいい連中ばっかりが集まってるんだから、守りだけに終始しなければなんとでもなるんじゃないかという甘い考えなんだけどな。
生徒会はお疲れだろうに、俺にまとわりつかれて、ちょっと辟易としていたよ。ざまみろ!
それでも点は入る。
点の入れあいと展開の速さ、ソレがバスケの醍醐味だ。
まぁ、結構な体力がいる競技だよねぇ。
俺が地味に活躍している間に、派手に活躍をしたのは尚ちゃんだった。名誉挽回といわんばかりの活躍っぷりに、ハルルンのテンションが鰻上り。
すごく熱い応援が聞こえたけれど、あくまで尚ちゃんはハルルンの方を見ようとしなかった。
見たらきっとやる気を失くすほどの応援だったよ。
ハルルンはやることが大胆だよね。風紀委員会の人が注意しにいってたよ。
俺は競技より、あっちを見ていたかったよ。
ケタケタ笑いながら、ねっとり香田先生の邪魔をしていたしゅーへーくんは、すばらしい動きで点もとっていた。
修平くんは何気に運動神経抜群なんだよねぇ。
機転の利かせ方もうまい。サポート方の遼ちゃんががっちりサポートして、前半戦は余り差はないけれど、此方が有利な状態で終わった。
いやー汗かいたな。
お休み中だったメンツの所に行くと、やけに興奮したさっちゃんとハルルンがいました。
いや、ハルルンは大興奮だったね、ごめんごめん。
「…晃二、かっこいい」
地味に君の幼馴染を邪魔しただけだったのに、さっちゃんにはどうやらフィルターがついているらしかった。
「なぁお、かっこよすぎ!結婚して!」
余計な一言がすごくついてるね。抱きつこうとするハルルンを避けながら水分補給する尚ちゃんは、競技よりハルルンに疲れているようだった。
「おまえ、注意されてんなよ…」
あ、何気に気がついてたのね。






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